Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第213回)

・『曼陀羅

日本アート・シアター・ギルド(ATG)制作の映画には前衛的なものが多く、今日見るとその奇抜さに驚いてしまう。

本作もそのひとつだ。冒頭、男女ふたりのセックスのシーンが延々数分間も続くところからして、あっけにとられる(w)。しかもその男女、どうやら他のカップルとスワッピング――セックスの相手を交換すること――をしているようなのだから、なおさらだ。

なかなかにアバンギャルドな本作だが、おおまかなあらすじを述べると、新左翼と思しき若い男女たちが、俗世間から逃れて一種のコミューン(共同体)をつくる、というお話である。

しかし彼らは、まぁ当然というべきか、挫折し、本作は悲劇的なラストを迎える。以前ご紹介した『ガイアナ 人民寺院の悲劇』とも通じる結末だ。もっとも、生々しい『人民寺院~』と比べると、こちらのほうはだいぶ抽象的だけれども。

 

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・『痴人の愛

画家の道をあきらめ、医大生となった主人公の青年。そんな純朴な彼が、場末のバーでいかにもメンヘラ―っぽいヒロインの女に一目ぼれしてしまったものだから、さぁ大変(w

女は彼を捨てて別の男と結婚するが、案の定、ただちに離婚(w)。また青年のもとへと戻ってくる。そんなダメ女の彼女のことを、しかしながら主人公はどうしても見捨てることができない……

という、ファム・ファタールモノの映画。「どうして、よりにもよってこんな女に……」と我々観客は思ってしまうが、しょうがない。童貞ほど、このテの女に引っかかってしまうものである。

主演の俳優が、見るからに童貞っぽい主人公の青年を好演。

 

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・『小さな目撃者』

地中海の架空の小国。アフリカ某国から大統領が訪問してきたが、あろうことか大統領は何者かによって狙撃され、命を落としてしまう。

この時、実行犯の顔を目撃してしまったのが、空想癖のある地元の少年。実行犯一味は口封じのため、少年の行方を追う。

……と書くと、スリル満点のサスペンス映画かと皆さん思うことだろう。たしかに、基本的にはサスペンス映画なのだが、ジョン・ハフ監督による、どこか人を食った感じのフシギな演出が印象に残る一作でもある。

主人公の少年が銃殺刑ごっこ(!)を楽しむという冒頭のシークエンスからして、ぶっ飛んでいる!

 

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・『ディスクロージャー

シアトルのIT会社に勤務する、マイケル・ダグラス演じる主人公。家族仲も良く、順風満帆に思えた彼の人生であったが……

新しく赴任した女性上司からなんとセックスを強要(!)されそうになり、妻子がいるからと懸命に断ると、あろうことかその翌日、彼女は「セクハラ被害を受けた」と言って主人公を提訴してきたではないか! 主人公の一週間にわたる戦いが、かくして幕を開けた。

本作は、セクシャル・ハラスメントをテーマにした映画である。それも一般的な「男から女へ」ではない。「女から男へ」のハラスメントであるところがポイントだ。

ひとつ、印象的な場面がある。女性上司から襲われた日の晩、主人公はエレベーターに乗り合わせた会社社長(男性)から唐突に「……実は君のことが好きだったんだ」と告げられ、キスまでされそうになるのだ――直後、主人公は慌ててベッドから飛び起き、このエレベーターでの一幕が自身の見た悪夢であったことを知る

僕ら男性はどうしても、「自分は男なのだからセクハラの“被害者”になんてなるはずがないや」と思ってしまいがちである。だが、そんなことはない。上司が女性であれば、あるいはゲイであれば、男性社員もまたセクハラの被害者となり得るのだ。男性諸君、ゆめゆめ忘るることなかれ。ちなみに僕はというと……

エロい女性上司さんに逆セクハラされたいです♡♡♡

 

 

・『12モンキーズ

20世紀末、細菌兵器によって人類の大半が死滅してしまう。かくしてディストピアと化した21世紀の世界から、細菌兵器について調査すべく、ブルース・ウィリス演じる主人公がタイムトラベルによって20世紀末のアメリカへと送り込まれる。

ところがこのタイムトラベル、技術としては甚だ不完全で、20世紀末のアメリカのはずが、誤って第一次大戦中のフランスへと主人公を送り込んでしまうなど、散々である(w

だが、それも無駄骨ではなかった。主人公の話に当初は半信半疑だった精神科医のヒロインが、彼の体内から第一次大戦時代の銃弾が剔出されたことで、ようやく彼を信じるようになるからである。かくして同志となったふたりは、過激な動物愛護団体12モンキーズ」に疑念の目を向け、徐々に迫っていく。

監督は、『未来世紀ブラジル』で有名なテリー・ギリアム

俳優陣のなかでは、「12モンキーズ」の頭領にして精神病患者でもある青年を演じたブラッド・ピットが光っている。彼はこの演技で1995年度ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞したのだという。納得!

 

 

書評『服従』

昨年の2017年春、フランスにて大統領選挙が行われた。

その前年の2016年にはいわゆる「ブレグジット(イギリスのEU離脱)トランプ大統領“爆誕”というサプライズがあったので、今回はいよいよ極右・国民戦線マリーヌ・ルペン党首が当選して極右大統領――しかもフランス史上初の女性大統領――誕生かと騒がれたものだ。

……結局、新自由主義色の強いエマニュエル・マクロンが当選、史上初の極右大統領は“少なくとも今回は”幻に終わったのだった。

 

本日ご紹介する『服従河出書房新社は、近年フランスで刊行され、大いに反響を呼んだ小説である。著者は小説家、詩人のミシェル・ウエルベック

2022年、大統領選に沸く近未来のフランス。選挙は、極右政党とイスラーム政党との一騎打ちの様相を呈している。はたして勝利を掴むのは、どちらの側か。

移民の大量流入と、それにともなう社会のイスラーム化。この問題に直面するフランスを、しがない大学教員の主人公の視点から描く。

2022年というから、今年から数えて、ほんの4年後。「近未来」というよりかはもう、「現代」と言ったほうが適切なくらいだろう。

実際、本著を読んでいると、同時代性を強く実感する。たとえば本著の主人公は何気なく、スマホを使ったり寿司を食べたりするのである――いうまでもなく寿司は今日ではグローバルな料理の代表格に他ならない

 

ネタバレになってしまって甚だ恐縮ではあるが(^^;)、本著では最終的にイスラーム政党が勝利を収め、フランス社会はイスラーム化を余儀なくされる。

ここで、個人的にはどうしても気になってしまう。ナショナリズムって、そんなにも弱いものか?

たとえEU統合が深化(進化)したとはいえ、たとえイスラーム系移民が大量流入したとはいえ、だからといってフランス人としてのナショナリズムがそうそう簡単に消滅してしまうとは、つまりフランス社会がイスラーム化してしまうとは、僕にはとうてい思えない。

僕には、ウエルベックナショナリズムの力を過少評価しているように思えてならないのだ。

 

もうひとつ、気になる点。

イスラームにはどうしても、女性蔑視という批判が付きまとう。そうした批判には、たしかに的を射た部分もある。

本著では、しかしながら、「男性に従う」というのは見方を変えれば「男性に保護してもらえる」ということでもあるのだから、案外女性にとっても悪い話じゃないんじゃないか、という具合にイスラームが擁護される。

たしかに、そうした見方もあるだろう。それについては、とやかく言うつもりはない。僕が言いたいのは、別のことなのだ。

本著で取り上げられるジェンダーの話は、女性の問題ばかりである。LGBT(性的マイノリティー)が、本著には出てこないのだ。僕には、それが一番気になる。

……意外に思われるかもしれないが、今日のフランスでは、少なからぬ数のLGBTが、極右・国民戦線を支持している。理由は、イスラームがLGBTに不寛容だ(と少なくとも彼らは認識している)からだ。

ウエルベックは、こうした人々の力も過小評価してはいないだろうか。

 

www.bbc.com

 

さぁ、現実の2022年大統領選挙は、一体どうなるのだろう。今からほんの4年後。決して、そう遠くはない未来である。

 

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

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書評『天使の世界』

本日ご紹介する本は、『天使の世界』青土社

キリスト教世界において、時代を問わず、多くの人々のイマジネーションを刺激してきた、天使なる存在をテーマとした本だ。著者は、マルコム・ゴドウィン。日本語訳を担当したのは、翻訳家の大瀧啓裕さんだ。大瀧さんは、これまで神秘思想関連の書籍を多く翻訳してきたことで知られている。

 

さて、現代人である我々は「天使」と聞くと、背中に羽の生えた小さな子供、という印象を持ってしまう――ルネサンス絵画の影響だろう。ところが、古代・中世において天使は、子供ではなく中性的な成人の姿で描かれるのが普通であり、もっとスゴイ場合にはそもそも人間の形態をとらない、すなわち人外の天使すらいたのだという。

本著はカラー印刷で図版も非常に充実しており、古代・中世における天使の絵画を多数見ることができる。なるほど、確かに人外の天使もいるなぁ(^▽^;)

 

本著を読んでいると、人類のイマジネーションの豊かさに、圧倒されてしまう。

ある意味、古代人は幸せだったのだ。彼らは、まるでファンタジーのようにロマンあふれる世界のなかで、生きることができた。

その点、近代人は不幸だ。科学のせいで、このクソ退屈な世界で生きることを余儀なくされてしまった(※)。その退屈さを紛らわすべく、我々はアニメやらライトノベルやらを日々量産しつづけているのだろう。

※だってそうだろう? 「この世界は100種以上もの元素によって構成されており……」という説明よりも「この世界は火、水、土、空気の四大元素によって構成されており……」という“説明”のほうがはるかに我々の中二病精神を刺激するではないか!(w

 

本著著者のゴドウィンさん、てっきり根暗のオカルトマニアなのかと思いきや(失敬!)、なかなかどうして、ユーモアがある。皮肉が効いていて、クスリとさせられる記述も多い。例えばこんな感じに。

 ≪ルターの全人生は絶えざる「サタン相手の闘い」であった。その闘いがはなはだしいものだったので、ルターは妻のケイティよりも悪魔とよく寝たといわれる。≫(113頁)

 

さて、本著はなかなかに、トリッキーな本だ。

前半では天使について詳細に解説がなされるのに、後半に入るや一転、唐突にUFOや宇宙人の話になってしまうのであるw(;^_^A

これには「え、何コレ? 天使の本じゃなかったの?wwwwwwww」と面食らってしまう。さてはゴドウィン、ただのオカルトマニアだったのか。

……もちろん、そうではないだろう。僕には彼の言いたかっただろうことが、なんとなく分かる気がする。

我々現代人はつい「古代人は天使なんて信じてたの?www」と嗤ってしまう。だがそれを言うなら、我々のなかにだってUFOを信じている者は大勢いるではないか。

「ふん、俺はそんなもん、信じてなんかいないやい!」と反発する人もいるかもしれないが、それを言うなら古代人とて、全員が全員、天使を信じていたわけではないだろう。「……ぶっちゃけ、天使って、どうなの?」と訝しく思っていた古代人だって、きっといたはずである。

要するに、UFOを信じる現代人に、天使を信じる古代人を嗤う資格はない、と著者は言いたかったのだ。……たぶん(w

 

天使の世界

天使の世界

 

 

この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『エヴァンゲリオンの夢 使徒進化論の幻影』東京創元社

『天使の世界』の翻訳を担当した大瀧啓裕さんによる単著。タイトルからも分かるとおり、難解なことで有名なアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を、神秘思想に精通している大瀧さんが一話一話解説していく、という内容の著作である。

エヴァブーム当時、サブカルライターたちによる「謎解き本」が大量に刊行されたが、本著が他の追随を許さないのは、なんといっても、大瀧さんの博識ぶり。これには圧倒されること請け合いだ。

……何を隠そう、僕の高校時代の愛読書でもある(w

 

エヴァンゲリオンの夢―使徒進化論の幻影

エヴァンゲリオンの夢―使徒進化論の幻影

 

 

書評『中島岳志的アジア対談』

本ブログではこれまで、政治学者・中島岳志さんの著作をいくつか取り上げてきた

本日ご紹介するのは中島さんの、単著ではなく対談集。『中島岳志的アジア対談』毎日新聞社である。

 

対談者の主な顔ぶれを見てみると……本ブログではおなじみ、作家の佐藤優さんや、評論家の片山杜秀さん仏教学者の末木文美士さん評論家の吉本隆明さん(1924-2012)、そして今年、自殺という衝撃的なかたちで人生に幕を下ろした評論家の西部邁さん(1939‐2018)、といった方々である。

彼らのほかに本著で登場するのは、政治学者の山口二郎さん、同じく政治学者の姜尚中さん、映画監督の森達也さん……といった具合に、一般には「サヨク」と思われている人々が多い。考えてもみれば、先ほどの名の挙がった吉本隆明さんだって、かつては全共闘の学生活動家たちにとっての思想的リーダーにほかならなかったのだ。

自らを保守だと名乗る中島さんが、しかしながら彼ら左派知識人たちとの対談に臨んだ意図は、僕にはよく分かる。

中島さんは、今日「右派」と呼ばれている人たちは、本当に右派なのか。むしろ、一般には「サヨク」と呼ばれている人たちこそ、本当の意味での右派なのではないか――そう問いたいのだ。

 

たとえば、社会福祉学者・岩田正美さんとの対談では、地域社会が包摂性を失ったせいでホームレスの問題が深刻化していることが語られ、フリーライター赤木智弘さんとの対談では、地方都市が車社会になったせいで地方商店街が衰退している――僕の出身地・静岡県沼津市がまさにそうなのでよく分かる――という現状が指摘される。

あるいは、タレントのいとうせいこうさんとの対談では、ナショナリズムとは区別される意味での「ジモト主義」の可能性について語られる。

これはいずれも、僕にとって共感できるテーマだ。

僕はつねづね、いわゆる保守派の評論家たちの関心がもっぱら、竹島尖閣諸島靖国神社、あるいは「従軍慰安婦」や「南京大虐殺」などの問題に集中していることに、違和感を抱きつづけてきた。

それらの問題も、もちろん重要ではある。その点は否定しない。

だがそれと同じくらい、たとえば三浦展さん言うところの「ファスト風土」の問題やゲーテッドコミュニティの問題だって、国民国家の将来を考えるうえで、極めて重要なテーマのはずである。そうした問題提起が、いわゆる保守論壇のなかでなされていないことに、僕は前々から苛立ちを募らせてきたのだ。この点では、むしろ左派と呼ばれる人々のほうが問題を深刻に受けとめている、と言っていいのではないか。

 

今日の左派は、ある意味では戦前右翼の継承者、と言ってもよいかもしれない。

中島さんと、上のほうで名前の挙がった片山杜秀さんとの対談では、まず「保守」と「右翼」の違いについて触れられる。

どちらも人間の理性をあまり信用しないという点で共通しているが、保守が社会を漸進的に変化させようとする立場であるのに対し、右翼は過去にあった(とされる)ユートピア的共同体へと還ろうとする。ゆえに、その言動は過激なものとなる。

中島さんたちは、戦前の日本社会において、右翼に近いといえる存在は意外にも保守ではなく、むしろ左翼のほうだったのでは、と議論していく。

重要な論点だ。戦前において右翼と左翼がきわめて接近していたという事実は、経済評論家の上念司さんや憲政史家の倉山満さんがつとに指摘しているところでもある。

なるほど、だから中島さんはあえて左派の人たちを対談相手に選んだのか、と思った。恐竜の子孫が意外にもワニ・トカゲではなく鳥類であるように、戦前右翼の継承者が意外にも今日「左派」とか「リベラル」とか呼ばれている人たちなのだということを、中島さんは対談者の顔ぶれによって示したかったのではないだろうか。

 

本著は、このように僕にとってはなかなかに知的刺激を受ける一冊となった。

もっとも、最後に付け加えておくと、僕個人は中島さんのことを保守だとは思っていない。保守“のこともよく勉強しているリベラルの学者さん”だと認識している。

 

中島岳志的アジア対談

中島岳志的アジア対談

 

 

書評『映画で学ぶ現代宗教』

本日ご紹介する本は、『映画で学ぶ現代宗教』(弘文堂)

まさにタイトルのとおり、映画を通じて宗教について学ぼう! という本である。

著者はおなじみ釈徹宗さn……とばかり思っていたら、違った(w

本著は、複数の社会学者、宗教学者らが書いた映画の紹介文を、編者である歴史学者井上順孝さんがまとめたものであった。(^▽^;)

 

本著で取り上げられるのは、仏教、キリスト教イスラーム教など、世界の宗教をテーマにした映画たち。あらすじも載っているし、宗教社会学的に重要な用語は太字で印刷される、というサービスぶりである。

本ブログでも以前取り上げた『刑事ジョンブック 目撃者』『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』『ファンシイダンス』『アンドレイ・ルブリョフ』などの作品も紹介されており、とても楽しいし、勉強になる。

 

勉強になるというのは、たとえば『ザ・メッセージ 砂漠の旋風』の紹介文。

この映画において、イスラーム教の開祖・ムハンマドの顔が描かれることはない。預言者の顔を描くことはイスラ―ムの教義により禁止されているから、と僕は思ってきた。だが、ことはそう単純でもないらしい。

≪映画冒頭で、イスラームは「マホメットの影像を禁じ」ているため、その「姿は画面に登場しない」とのクレジットがあるが、この和訳には多少語弊がある。英語原文には「預言者の具現化は、彼のメッセージの精神性を損なうと考えるイスラームの伝統を尊重する」とある。実際コーランには預言者の肖像画を禁止する条文は存在せず、単に偶像崇拝を禁じているだけである。歴史上ムハンマドの姿を描く細密画は皆無ではなく、現代もイランなどではムハンマド肖像画が市販されているという。≫(60頁、太字部分は原文ママ

そ、そうだったのか……(;^ω^)

 

本著は、しかしながら、コアな映画ファンの方が読むと、いささかガッカリしてしまうかもしれない。

というのも、本著は映画そのものというよりかはむしろ、映画を通じて宗教や社会について知ることを目的に書かれた本だからだ。

本著は、したがって映画批評というよりかは、宗教学ないし社会学の本として読んだほうが適切、と言えるだろう。

もちろん、「人文・社会科学にも興味があるよ」という映画ファンの方にとっては、本著はオススメの一冊である。

 

僕は結構映画を見ているほうであるが、それでも本著を読むと、まだまだ未見の映画が数多くあることを思い知らされる。

あぁ~、もっと映画見たい(w

 

映画で学ぶ現代宗教

映画で学ぶ現代宗教

 

 

書評『人は死ぬから生きられる』

本ブログではこれまで、曹洞宗の僧侶・南直哉(みなみ・じきさい)さんの著作を多数取り上げてきた。

本日ご紹介する『人は死ぬから生きられる』(新潮社)は、そんな南さんと、お茶の間でもおなじみ、脳科学者の茂木健一郎さんのふたりによる対談本だ。

 

……と紹介しておいて、のっけからこんなことを言うのもナンだが、この茂木サン、どうにも“お騒がせ”タイプの人である。twitter上での炎上はもはや日常茶飯事。過去には所得の申告漏れで追徴課税を受けたこともある。

本著でも、やれ「クオリア」だの、やれ「偶有性」だのと、もっともらしいキーワードをいちいち提示するのだけれど、これらの概念はまだ形成途上であり、自分でもまだ詳しくは説明できない、と率直に認めてしまう。

これには「オイ!(怒)」と思わずツッコミを入れずにはいられなかったw(;^_^A

 

そんなわけで、以降に取り上げるのは、もっぱら南さんのほうの発言内容である。こちらは面白い(w)

たとえば、以下の箇所などどうだろう。

≪私は自由というのは「航海する人」だと思う。「航海する人」は目的地を自分で決め、そこから逆算して航路が生じる。そして自分が今どこにいるか、現在地を知っている。「目的地・航路・現在地」、この三つを知っている人が、自分の力で海を渡って行ける人です。ところが、この三つのどれかを欠くと漂流してしまう。目的地がわからない、航路を知らない、現在地がわからないという状態。この人は自由でも何でもない≫(98頁)

南さんに言わせれば、フリーターなんてのは、その実フリー(自由)でもなんでもない、ありゃただのドリフター(漂流者)だというのだから、実に手厳しい(w

クラーク博士のかの有名な「少年よ、大志を抱け」という言葉も、南さんは嫌いだという。こういう「夢を追う」生き方に、南さんは難色を示す。

≪例えば、司法試験を受けると言いながら、ずるずるとニートを続けているとか、いつかヒット小説を書くと言いながら、女房に食わせてもらっている人がいるでしょう。司法試験や小説執筆を免罪符にして、人生を質入れしているとしか思えない。夢とか希望のために生きると言いながら、現在をスポイルしている人間も同じ≫(162頁)

「人生を質入れしている」というのは、なかなかにスゴイ表現だ。南さんの言葉には、このようにエッジの効いた、鋭いものが多い。

僕は、南さんの言う「航海する人」でありたいと思う。「後悔する人」になるのはご免だw

 

南さんの発想は――否、「禅宗の発想は」と言ったほうがいいのかな――このように僕にとっては共感できるものが多い。

「個性」に関する考え方もそうだ。

このご時世、「個性の時代」、「個性の尊重」とむやみやたらに個性がもてはやされる。だが禅寺は、修行僧たちに徹底して画一的な規範を押しつけることで知られている。それこそ、食事の際の箸の使い方や目線にまで、細かいルールがあるのだ!

それでは禅僧たちの個性は圧殺されてしまうのだろうか。

そうではない。南さんはほかの著作で、禅僧にはむしろ個性的な人が多いと書いていた。徹底して画一的な規範を叩きこまれて、それでもなお滲み出てくるものこそ、本当の個性である――禅宗は、そう考えるのだ。

こうした考えに、僕は共感を覚える。

あるいは、これまた南さんが他著で書いていたことと記憶しているが、「『型破り』というあり方は『型』があって初めて成り立つのだから、ある意味では『型破り』な人間こそ最も『型』に依存しているのだ」という考え方もある。

いやはや、まったくそのとおりだなぁ、と僕は深く納得させられたのだった。

 

南さんの鋭い言葉に触れていると、「夢」とか「個性」とか、世間一般でもてはやされている言葉に対して、疑念が湧いてくる。このように「当たり前とされていることを疑いはじめる」ことこそ、読書の醍醐味のひとつ、なのだろう。

……うん、茂木サン、やっぱりいらないねw

 

人は死ぬから生きられる―脳科学者と禅僧の問答 (新潮新書)

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最近見た映画の感想(第212回)

・『脱走山脈』

佐藤優似の)オリバー・リード演じる英兵の主人公。第二次大戦中のドイツで捕虜となってしまった彼は、現地の動物園で象の飼育係を任される。その結果、すっかり象に情が移ってしまった彼は、脱走して象と一緒にスイスへ亡命することを決意する。

……とまぁこんなお話で、戦時下のドイツを象を連れて旅する、という奇想天外なストーリーが本作の一番の見どころだ。アルプスの田園風景のなかを象と一緒に旅する様子は、なんともシュールで笑えてしまう(w

「象なんていたところで、脱走の足手まといになるだけなんじゃないの?」と思われるかもしれないが、その象が最後の最後で役に立つというのだから、良く出来た脚本である。

先日ご紹介した『ポール・ニューマンの脱走大作戦』同様、戦時下の脱走劇をコミカルなタッチで描いた作品で、とても楽しみながら観ることができた。

象かわいい♪

 

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・『断崖』

知的だがオールド・ミスである主人公の女性。人当たりのいい男性と結婚するが、なんと彼の本性は詐欺師であった。なんとか彼を定職に就かせようとするも、長続きしない。やがて、彼と関係する人物が次々と謎の死を遂げる。もしや、夫が殺したのでは……

と疑心暗鬼になる主人公を描いた、サイコスリラー映画である。監督は、サスペンス映画の神様、アルフレッド・ヒッチコック

果たして夫は本当に人を殺していたのか、それとも……結末が気になる方は、ぜひご自分で確かめてくださいね。

それにしても、ヒッチコック御大の映画を見ていると、なにも殺人鬼がチェーンソーを持って襲い掛かってこなくとも、恐怖を演出することは可能なんだな、ということがよく分かりますねぇ。

 

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・『脱走特急』

ここ最近、第二次大戦中の欧州を舞台にした脱走劇の映画を多く取り上げている。フランク・シナトラ主演の本作もそのテの作品のひとつだ。

1943年のイタリア。米英軍の捕虜たちが収容所に収監されている。やがてイタリア降伏の知らせが届く。英軍のリーダーは軍法会議を開いて収容所の所長を絞首刑にしようとするが、シナトラ演じる米軍のリーダーはこれを制止する。ところがそうして生き永らえた所長があろうことかドイツ軍に通報してしまったため、主人公たちは列車でドイツへと移送される羽目になってしまう。

さぁここからが本番だ。主人公たちが、監禁されていた車両から脱出し、監視役の兵士たちを倒して列車を制圧してしまうシークエンスは、スリル満点! 一行のなかでドイツ語のできる兵士が、ナチスの将校に扮して危機を脱する場面などはもう大笑いだ(w

終盤のドイツ軍爆撃機との戦闘から男臭いラストに至るまで、観客へのサービス満点の娯楽映画であった。

 

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・『フォー・ウェディング

冠婚葬祭という言葉からも分かるとおり、人間にとって重要な儀礼が、結婚と葬式である。

ヒュー・グラント演じる本作の主人公は、花婿付き添い人として数々の結婚式に参列するが、自身はまだ独身である。そんな彼が、ある結婚式で米国人女性と知り合ったことで、運命の歯車が動き始める。

結婚式は、同時に人々の出会いの場でもある。結婚式をきっかけにして新たにカップルが誕生し、彼らの結婚式でさらにまたカップルが……という具合に、縁が連鎖的に結ばれていくのだ。

本作の邦題は「フォー・ウェディング」だが、原題は"Four Weddings and a Funeral"。結婚式だけでなく、お葬式(Funeral)が描かれる点もまた、本作の特徴のひとつだ。

ある結婚式で、初老の男性が突如として倒れ、そのまま亡くなってしまった。結婚式から急転直下、お葬式へ。亡くなった男性の言葉が、また面白い。「自分は結婚式より葬式のほうが好きだ。結婚式はもしかしたら経験できないかもしれないけど、葬式なら誰でも経験できるから」。いやはやまったくそのとおりだな、と苦笑してしまった(w

主演のヒュー・グラントは、その容姿こそ見紛うことなきイケメンのそれであるにもかかわらず、不思議と“童貞臭”が漂う稀有な俳優であり、それゆえ僕は彼をごひいきにしている。

 

 

・『ナンナーク』

タイ映画は、なかなかに侮れない。本ブログではこれまで『ブンミおじさんの森』『レベル・サーティーン』などの優れたタイ映画を取り上げてきた。

本作『ナンナーク』は、タイ版『怪談』ともいうべき作品だ。

兵役を終えた主人公の男が村へ帰ると、妻は子供を出産していた。家族3人でつかの間の団欒を楽しむ主人公であったが、村人は彼に、ある衝撃的な事実を告げる……

日本の『怪談』と違うのは、ラストで高僧がエクソシスト的に除霊をやるところ。タイ社会がいかに僧侶をリスペクトしているかがよく分かる映画だ。

余談ながら。本作はタイの有名な民話を題材としており、本作は公開当時、タイ国内にて『タイタニック』を上回る興行収入を記録したのだという。

 

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