Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第60回)

・『さらば、わが愛覇王別姫

 今月に入って一本目の映画評を、このような素晴らしい作品で始めることができ、光栄に思う。

20世紀初頭の北京。ある貧しい家の子供が、生活苦から京劇の一座に叩き込まれる。現代ならば「体罰だ!」と糾弾されかねないほどの厳しい修行に耐え、子供は成長して京劇の女形となる(※京劇は日本の歌舞伎と同様、男性のみによって演じられる)

女形の主人公と、彼の幼年時代からの相棒のふたりは、長じて京劇のスターとなるも、やがて彼らのまえに様々な“敵”が現れる。日本軍。国民党。そして、共産党

日本軍は主人公らの目には侵略者と映ったが、それでもまだ日本軍は京劇に一定の敬意を払った。ところが戦後の国民党は野卑そのもので、京劇にまるで敬意を払わない。共産党にいたっては、京劇の世界に土足で踏み込み、「もっと労働者を生き生きと描いた内容に改変しろ!」などと臆面もなく要求する。

なんとか体制側との対決を回避しようとする相棒。だが女形のほうはかたくなに芸術至上主義を貫き、それゆえ体制側とつねに衝突する。やがて彼らに最大の危機、文化大革命が降りかかる…。

本作は93年製作の香港映画。この時期の香港だからこそ撮れた映画だろう。現在の香港でここまで描けるかどうかわからない。

主人公ふたりのBL的な関係性もよい。特に相棒が女と結婚する場面で、女形が“本妻”ぶって結婚相手に露骨に敵意を向ける場面などは実によい。少年時代の女形を演じる子役が実に端正な顔立ちをしていたのも印象に残った。

唯一悔やまれるのが、見るからに安っぽい邦題。ここは原題どおり『覇王別姫』だけでよかったろう。

 

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・『日の名残り

アンソニー・ホプキンスといえば、ハンニバル・レクター博士が当たり役。でも本作での役どころは執事。したがって人肉は食べません(当たり前ですね

1930年代の英国。主人公の執事が仕える親独派の貴族の館は、その豪華さゆえに政治家が頻繁に訪れ、非公式の国際会議の場としても使われている。そこで日夜交わされる親ナチスの人種主義的な言説に、使用人一同は動揺を隠せない。それでもホプキンス演じる執事は「使用人たるもの、政治に口を出すべきでない」と一同をたしなめる。

時代のうねりに翻弄される政治的にナイーブな貴族と、あくまで執事としての生き方を貫き、政治から距離を置き続ける執事。ふたりの人生のコントラストが鮮やかに描かれる。

僕「あなたは本当に政治のことには口を出さないのですね」

ホプキンス「あくまで、執事ですから」

 

 

・『ブロードウェイと銃弾』

苦労人の劇作家の主人公。彼の書いた戯曲がついにブロードウェイで上演されることになった。だが喜びもつかの間。スポンサーやらその愛人の主演女優やらから無理難題を突き付けられ、脚本はズタズタに改変されていく…。

監督はロマンチック・コメディの王様ウディ・アレン

脚本がどんどん変更されていくさまは、三谷幸喜監督の傑作『ラヂオの時間』を見ているようで楽しかったデス。

 

 

・『バグジー

エンターテインメント都市・ラスベガス繁栄の礎を築いた男ベンジャミン・シーゲルー通称はバグジー。だが本人はそう呼ばれるのを極端に嫌うーの物語。実話である。

LAをシマとするマフィアのバグジーことベンジャミン・シーゲルは、当時まだネバダの片田舎にすぎなかったラスベガスにいちはやく着目。将来の発展を確信した彼はさっそくこの地に高級ホテルを建設しようと目論む。

シーゲルは、些細なことですぐキレて暴力をふるいまくる。率直に言って、「この人、サイコパスだったんじゃね?」との疑いを禁じ得ない。

だが、こういう人間として破綻した人物がいたからこそ、砂漠の不夜城・ラスベガスの今日の繁栄がもたらされたのだ。ひるがえって、我が国の明治維新の元勲だって、このテの人って意外と多かったんじゃないかしら。

 

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・『オルランド』

英国の女性小説家ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』の映画化作品。

西暦1600年。時のエリザベス女王から屋敷と引き換えに、老いることを禁じられた主人公の美少年。不死の存在となったためにその後何世紀にわたって生きつづけ、紆余曲折を経て、ある日唐突に女性に変化してしまう。主人公はそれを淡々と受け止め、以降は女性として、今日まで生きていく。

近世の不死の美少年が性転換して現代まで生きるというお話を、あまりファンタジックに描くのではなく、むしろ当たり前のことのように淡々と描いているところが面白い(この点、僕はデヴィッド・フィンチャー監督『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』を思い出した)。

主人公は美少年時代、女性時代と一貫してひとりの女優が演じているが、老境のエリザベス女王を演じているのは、なんと男性俳優であるという(!)。

ジェンダーの観点からも、なかなかに興味深い作品でした。

 

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