Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第71回)

今回は、最近の日本映画も取り上げます。

 

・『エル・スール』

スペインのビクトル・エリセ監督はこれまでにわずか3作品しか残していない、極端な寡作の人として知られている。本作はその3作品のなかの2作品目。

1950年代のスペイン。主人公の少女の父は、スペイン南部から北部へと移住してきたレーニンに激似のハゲ頭の医師。故郷である南部を去ったのは、彼の父(つまり主人公の少女の祖父)との不仲が原因であり、その不仲はどうやら政治信条の対立によるものらしいのだが、映画のなかでそれ以上詳しく述べられることはない。

父には実は恋仲であった映画女優がおり、彼女もまた南部の人であった。父は北部に移住したのちもしばしば彼女と文通をしており、それが主人公の少女の知るところとなる。

やがて南部に関心を持つようになった少女は、長じて南部への旅に出かける…。

タイトルの「エル・スール」(el sur)とは、スペイン語で「南部」の意。だが映画では実際に南部の光景が描かれることはない。

南部は主人公にとっての「ここではないどこか」だからだ。

 

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・『ミツバチのささやき

寡作の人、ビクトル・エリセ監督の記念すべき第1作目。まだスペイン内戦による混乱冷めやらぬ1940年のスペインを舞台に、幻想にとらわれがちな性格の少女を描く。

上で取り上げた『エル・スール』もそうだったが、エリセ監督作品では「政治」が直接的に描かれることはない。が、まるで遠方で鳴り響く雷鳴のように、「政治」はたしかにその存在感を主張する。

本作ではそれは、ある日少女の住む村に逃げてきた脱走兵というかたちで描かれる。おそらくはフランコ政権の追っ手から逃れてきた左翼の兵士なのだろう。そんな彼もあっけなく射殺され、映画から退場する。

スペイン内戦は、内戦としてはやや例外的に、左翼の政権を右翼の反乱軍が転覆させた歴史的事件であった。

 

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・『新宿スワン

原作は新宿・歌舞伎町を舞台とする人気漫画。

監督は『紀子の食卓』『愛のむきだし』でおなじみ、日本映画界の鬼才・園子温

と来りゃあ、つまらないはずがないじゃないか!w 実際、私個人はおおいに楽しめた。ただ、園子温作品の特徴である、やたら血しぶきがとびまくる圧倒的な悪趣味ぶりは本作では鳴りを潜めているので、彼の熱狂的なファンにとってはいささか物足りなかったかもしれない。

主人公役の綾野剛は、ちと顔がかわいすぎる気がしないでもないが(^_^;)、とてものびのびと演技していて好感が持てた。ヴィラン(悪役)の山田孝之は『クローズZERO』『闇金ウシジマくん』ですっかり裏社会の男のイメージが定着した(『電車男』ではあんなにキョドキョドしたオタクだったのに!)。

だが特筆すべきはやはり、伊勢谷友介 あの「怪優」とでも言うべき独特の存在感は他の俳優では出せない。伊勢谷は現在の日本映画界において、私が最も気に入っている男性俳優である。

クライマックス、主人公と悪役はビルの屋上で殴り合った挙句、「…お前、いいやつだな」と言って和解する。ヤンキーものの定番だ。だが主人公と別れた悪役は、殺し屋にあっけなく殺されてしまう。

これぞ、歌舞伎町、プロフェッショナルの世界だ。

「…お前、いいやつだな」で万事済んでしまうヤンキーの世界は、なんだかんだで所詮はモラトリアム空間だった、というわけか。

 

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・『海街diary

鎌倉に住む三姉妹。長く別居していた父の葬儀の際、異母妹の存在を知らされる。三姉妹は、身寄りのなくなった異母妹を鎌倉に呼び寄せることを決意。かくして三姉妹あらため四姉妹の新生活が始まった。

監督は『誰も知らない』『そして父になる』でおなじみ、是枝裕和

本作を見ていると、「あぁ、綾瀬はるか乳でけぇなぁ、長澤まさみも乳でけぇなぁ、鎌倉の街って落ち着きがあって、いいなぁ。海が青くて綺麗だなぁ」とため息が漏れてしまいそうになる。

そんな鎌倉の街を舞台に、四姉妹の心情が繊細なタッチで描かれてゆく。異母妹があまりに純情すぎてやや気味が悪いのを除けば、実にリアルな描写だ。是枝監督は女を描くのに長けている。

…いや、日本の偉大な映画監督たちは―黒澤明という偉大すぎる例外を除いて―もともと女を描くのに長けていたのだ。僕は本作を見ながら、女性映画の名手・成瀬巳喜男監督の諸作品を思い出していた。彼が生きていたら、きっとこんな映画を撮っていたに違いない。

ひさびさに「あぁ、日本映画を見ているなぁ」という気にさせてくれた作品だった。