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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『村上春樹いじり』

「やれやれ」

「昼過ぎに起きてスパゲティ―を茹でながら…」

「僕は射精した」

毎年毎年、ノーベル文学賞の有力候補に挙げられ、そのわりにはいつも受賞を逃している、国民的(って言ってもいいよなぁ、なんだかんだで)小説家・村上春樹

そのあまりに独特すぎる文体から、ファンも多けりゃアンチも多く、ネット上ではカップ焼きそばの作り方を村上春樹風に書いてみたとか『けいおん!』を村上春樹風に書いてみたとか、いちいちネタを挙げればキリがない。

 

今回ご紹介する『村上春樹いじり』(三五館)の著者・ドリー氏は、先日の記事で少しだけ取り上げた、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のAmazonレビューの作者。そのあまりにキレッキレの文章はたちまちネット上で話題となり、こうして単著まで発売されるに至った、という次第。

村上春樹いじり』はそのタイトルの通り、村上春樹の長編作品全13作を鋭いツッコミでひたすらいじり倒していくというスタイル。どれもこれも面白いのだけれど、個人的に特に気に入ったのが『ダンス・ダンス・ダンス』評。主人公の「僕」と同級生の五反田くんによる、傍目からは「イタい」としかいいようがない"クールセッション”を著者が徹底的にいじりまくるくだりは、思わず声に出して笑い転げてしまうほどおかしかった。

 

こう書くとハルキスト村上春樹ファン)たちは「ええ? 村上さんがそんなにdisられてるの? イヤだなぁ…」と不安を覚えるかもしれない。が、僕はむしろ本著を読んで、逆説的な意味で著者の“春樹愛”を強く感じた。少なくとも「村上春樹『○○』、私はこう読んだ」みたいな評論集に、おそらくは“論壇政治”というヤツでいやいや村上春樹評を寄稿する評論家連中よりかは、ずっといい。だいたい本当に嫌いだというなら、こうやってわざわざ本まで書くはずがないじゃないか。

 

それにしても、著者のこの切れ味の良すぎるツッコミ芸は、いったいどこで磨かれたものなのだろう。こちらのインタビュー記事を読むと、どうやら辛口のコラムニストとして知られたナンシー関(1962-2002)の影響を強く受けているらしいことがわかる。「あぁ、どうりで~」と納得。

 

最後に、本著の難点をひとつだけ。

本著では村上春樹の長編小説13作のレビューが、『風の歌を聴け』から『多崎つくる』まで本編の発売順に並べられているのだが、上述のとおり『多崎つくる』評だけは世に出た経緯が異なるので、発売順で読むとこのレビューだけ文章が異質で、浮いてしまっている。

ここは、まず前書きで本著が執筆された経緯を説明してから、著者にとっての原点である『多崎つくる』評からはじめ、その次に『風の歌』から『1Q84』まで、本編の発売順にレビューを掲載するべきだったろう。

 

村上春樹いじり

村上春樹いじり

 

 ↑ねぇ見てよこの表紙。もう完全に『ノルウェイの森』のパロじゃんwww

 

 

 

こちらもオススメ! BOOK GUIDE

・『病む女はなぜ村上春樹を読むか』(ベスト新書)

比較文学者の小谷野敦さんによる、村上春樹についての批判的な論考。小谷野さんは、公式ブログ「猫を償うに猫をもってせよ」から、ネット上では「猫猫先生」の愛称で親しまれている。

本著において小谷野さんは、豊富な文学的知識をふんだんに盛り込みながら村上作品を批判していくが、言ってることは実は上に紹介したドリーさんとそんなに大差ない。要は(ドリーさんの言葉を借りれば)「村上作品のオシャンティーさ」を批判している、ということになる。

ただ、ドリーさんはなんだかんだで“春樹愛”を感じさせるのに対し、小谷野さんのほうは村上春樹初期作品を「読むに堪えない」と斬って捨ててるくらいだから、あぁ本当に嫌いなんだろうなぁ、と(;^ω^)

それにしても我らが猫猫先生の博識には驚かされる。