Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

読書ノート(第3回)

・『愛と幻想のファシズム

文学作品はときとして、歴史書よりもすぐれた教材となる。

例えば、戦前の右翼テロリストのエートスを知るには三島由紀夫豊饒の海』四部作の二作目『奔馬』が格好の教材になるし、天皇主義を知るには見沢知廉天皇ごっこ』が最善のテキストとなる。

それではファシズムを知るには…日本文学のなかから挙げるとするなら、その名もズバリ、村上龍『愛と幻想のファシズム』となるだろう。

80年代末の日本を舞台に、強いカリスマを持った青年がファシズム政党を結成、やがて日本の支配者となり、世界を陰で操る多国籍企業ネットワークと対峙するまでを描く。

ファシズム政党の描写が実にリアルで驚かされるが、もう一点、本作で面白いのは、作中の国際関係だ。

本作が書かれたのは80年代。興味深いことに、日本が米ソ両国による支配体制に立ち向かうという筋書きになっている。本作では、中国の影はやや薄く、どちらかといえば日本に協力的なようにすら見える。

これが現代だったらおそらく逆で、米中両国による支配体制に日本が(場合によってはロシアと組んで)立ち向かう、という筋書きになることだろう。本作が書かれた80年代、日中関係はまだまだ良好だったのである。

それは80年代の他の文学、漫画作品を見ても分かる。大友克洋気分はもう戦争』では、中ソ戦争の勃発をうけて日本の街宣右翼が「中国は日本文明の母です!」と絶叫しながら中国を支援するよう訴える場面がある。先ほど名前の出た見沢知廉の小説でも、新右翼の青年たちが日中両国を薩長に、米ソを幕府になぞらえて「世界維新」の計画を練るという場面が登場する。

尖閣における日中衝突がいよいよ現実味を帯びてきた2010年代の今日見ると、隔世の感を禁じ得ない…。

 

 

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)

 
愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

 

 

・『惑星気象学入門』

今年春、日本の金星探査機「あかつき」が金星の周回軌道に投入された。これにより、金星で観測されている謎の気象現象「スーパーローテーション(後述)の研究が進むことが期待されている。

そんな金星の大気を主なテーマに扱ったのが本著。まず、大気のある三つの岩石惑星である金星、地球、火星の大気について概要が説明され、続いて木星などのガス惑星についても少し解説がなされた後、最後に金星に戻って、惑星の自転速度よりもはるかに速いスピードで大気が惑星を一周する「スーパーローテーション」と呼ばれる現象について、現時点での仮説が二つ示される。

なかなか興味深い本だが、かなり専門的な内容であるため、「科学のことはどうにもよく分からないんだよなぁ…」という文系の方にとっては結構ツラいかもしれない…(;^ω^)

 

 

惑星気象学入門――金星に吹く風の謎 (岩波科学ライブラリー)

惑星気象学入門――金星に吹く風の謎 (岩波科学ライブラリー)

 

 

・『太陽系に未知の「惑星X」が存在する!』

2008年、海王星の外側に未知の惑星が存在するという説が提唱され、巷間の話題をさらった。

本書の著者は、その仮説の提唱者のひとりである向井正教授。もちろん、タイトルにある「惑星X」とは、彼が存在を指摘した未知の惑星のことだ。先ほど取り上げたお堅~い『惑星気象学入門』とは異なり、こちらは平易な文体で書かれているので、文系の人でも安心w

本著では、まず天文学のこれまでの歩みがまとめられ、続いて想定される「惑星X」の性質について説明がなされる。

向井教授は惑星X仮説に絶対な自信を持っているようで、≪この先5~10年の間に、間違いなく発見されることになるでしょう。見つからない理由を見つけられないくらいです。≫(本著34頁)とまで言い切っている。

…本著が刊行されたのは2008年だが、残念ながら2016年9月現在「惑星X」の存在は確認されていない。

ところが。

今年1月、米国の天文学者が仮説上の太陽系第9惑星「プラネット・ナイン」の存在を予言した。「プラネット・ナイン」は向井教授の「惑星X」とは、大きさ、明るさ、距離がだいぶ異なるが、①離心率の高い(=つぶれた楕円の)軌道を回っていること、②黄道(=他の惑星の公転面)に対してかなり傾いていること、という性質が共通している。

この秋から、日本の国立天文台と米国のカリフォルニア工科大の合同チームがプラネット・ナインの探索を開始すると報じられた

はたして我々は、第9惑星の姿をこの目で見ることができるだろうか。続報を待ちたい。

 

太陽系に未知の「惑星X」が存在する! (講談社+α新書)

太陽系に未知の「惑星X」が存在する! (講談社+α新書)