Furusawa Keisuke's blog

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書評『経済学をめぐる巨匠たち』

社会学者・小室直樹先生(1932-2010)は、政治的には保守に分類されることの多い人であった。

それは、彼が渡部昇一立川談志など、保守の人々と親交があったことからもよくわかる。

日本において、保守の担い手となったのは、その多くが文学ないし文芸評論の人たちであった。文芸評論も広義の文学と捉えれば、みな文学の人ということになる。たとえば福田恆存三島由紀夫江藤淳といった人たちがそうだ。

これに対して、小室直樹先生は、文学の人ではなかった。

彼は、科学の人であった。

この場合の「科学」とは、社会科学に限定されない。小室先生の場合、その学問の出発点は数学ないし物理学であった。巷では、「科学」といえばもっぱら自然科学のことを指す。小室先生はまさに、一般の人が思い浮かべる意味での、科学の人であったのだ。

わが国の保守において、彼のような科学の人は、少ない。他には…西部邁がいるくらいだろうか。

小室先生が科学の人であったのは、彼の著作を見ればよくわかる。先ほど名の挙がった福田恆存らとは明らかに異質の文体だ。

非常に論理的で、明快である。

小室先生の代表作『~原論』シリーズはわかりやすい文章が特長だが、その「わかりやすさ」も、彼の高度の専門的知識や高い論理的思考能力に裏打ちされたものであることは言うまでもない。

 

さて、前置きが長くなってしまったが、今回ご紹介するのは、小室直樹先生の著書『経済学をめぐる巨匠たち』ダイヤモンド社

タイトルの通り、近代経済学の発展に寄与した経済学者たちの業績について解説した本だ。『~原論』シリーズと比べるとやや硬めの文体だが、それでも退屈きわまりない経済学の教科書とは比べ物にならないくらいわかりやすく、面白い。

アダム・スミスなど近世ヨーロッパの経済学者から始まり、ケインズ、サムエルソンなど20世紀の経済学者へと続いていく。最後に森嶋通夫など日本の経済学者が取り上げられる。

近代経済学の発展の歴史がとても簡潔に整理されていて、わかりやすい。

本著を読むと、近代経済学の歴史とは要するに、古典派経済学vsケインズ経済学、あるいはそれらが公理としたセイの法則vs有効需要の原理の対立の歴史であったことが理解できるのである。

 

これらの解説は、もちろん面白い。だが、個人的に一番面白いと感じたのは、終盤の日本の経済学者たちに関する解説の箇所だ。

彼らは20世紀の人物なので、著者である小室先生ご本人が直接会ったことがあるのだ。いや、「会ったことがある」などという次元ではない。小室先生は進んで彼らに師事したのである。小室先生にとっての、いわば学問上の師にあたるのが、彼らなのだ。

たとえば、日本におけるマックス・ウェーバー研究の大家・大塚久雄が晩年、小室先生にあてた“遺言”は、心に染みた。

 

皆さんもぜひ本著を読んでみてください。

 

経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS)

経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS)