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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新』

今回もまた例によって、社会学者・小室直樹先生(1932-2010)著作を取り上げることにする。

今回ご紹介する本は、『小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新』。

 

表紙を見ると、タイトル中の「革新」の部分に「イノベーション」とルビがふられているのが分かる。

イノベーションとは、経済学者ヨーゼフ・シュンペーター(1883-1950)によって定義された言葉である。

このシュンペーターなる人物、実は小室先生の師匠のそのまた師匠にあたる。小室先生が米国留学中に学恩を受けた経済学者ポール・サミュエルソン(1915‐2009)の師匠にあたる人物だからだ。

さてこのシュンペーター氏、何を言ったかというと、資本主義には「企業者」(entrepreneur)が必要不可欠だと説いたのである。

企業者とは何ぞや。

企業者とは、≪創造的なやりかたを始めて、古いものを破壊して新しいものを創造する。つまり、創造的破壊を行う≫(184頁)人々のことを指す。

要するに、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ(1955‐2011)みたいな人のことを指す言葉である。

ただの資本家ではいけない、こういう企業者こそ資本主義の発展には不可欠だと、シュンペーターは考えたのだ。

 

明治維新以降、日本は資本主義国家として再スタートを切ることになった。このとき、企業者として活躍したのは、どのような人々だったか。

小室先生は、下級武士に着目する。

明治維新以降、この国の政治指導者となったのは、薩長の下級武士たちであった。が、彼らが活躍したのはなにも政治の世界だけにとどまらない。

経済の世界においても、彼らは大活躍したのである。その証拠に、明治以降の財閥は彼らが担い手となった。たとえば三菱財閥の生みの親が、土佐の下級武士・岩崎弥太郎(1835‐1885)であったのは象徴的である。

 

どうして彼らは、日本資本主義の担い手となることができたのだろう。

これについての小室先生の説明が、実に面白い。

ヨーロッパにおいては、プロテスタント、もっといえばカルヴィニズムカルヴァン主義)が資本主義の精神を生み出した。

日本において、カルヴィニズムに相当するものは、勤王思想であり、カルヴァンに相当する人物は思想家・山崎闇斎(1619‐1682)である。

彼の説いた勤王思想「崎門(きもん)の学」が幕末に至って影響力を拡大、その影響を受けた勤王の志士たちが、マックス・ウェーバー(1864-1920)の言うところの「行動的禁欲」(aktive Askese)の精神の担い手となり、彼らこそが、きたる日本資本主義の導き手たる企業者となったのだ。

 

もちろん、ヨーロッパと日本とでは、歴史も文化もまったく異なる。にもかかわらず、カルヴィニズムと勤王思想というふたつの思想が、奇しくもまったく同じ役割を果たしたのである。

こうした驚くべき発見こそが、社会科学をやる上での醍醐味なのだろう。

 

小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新

小室直樹 経済ゼミナール 資本主義のための革新