Furusawa Keisuke's blog

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書評『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』

「科学文明が滅んだあとの世界」というのは、我々近代人が好んで想像してきたテーマである。

 

実写映画では『マッドマックス』シリーズがこうした世界観を前提にしているし、アニメ映画では我が国の『風の谷のナウシカ』がやはり同様の世界観を前提としている。

これらの作品群において、文明なきあとの世界に住む未来人たちは、“未来人”とは言うものの、その実、原始時代同様の生活を営んでいる場合が多い。

科学文明時代の記憶は、伝承という形でかろうじて次世代に継承されていく。

そこでは我々近代人は「古代人」と呼ばれ、我々の科学技術は、たとえば「古代人は目には見えない星をも見ることができ、翼のある鉄の鳥に乗って大陸間を移動し、遠方の人々とでもまるで近くにいるかのごとく話をすることができ…」といった具合に、神話的表現で語り継がれていく。

皆さんも、このテの映画やアニメは見たことがあるだろう。現代科学技術を総じて「古代人の知恵」とか呼んじゃう、アレである。

 

実際に、科学文明が崩壊したら、いったいどうなるのだろう。

その点について真面目に考察した興味深い書物が、今回ご紹介する『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』河出書房新社だ。

 

この本は、科学文明崩壊後に我々が何をなすべきかを指南してくれる本でもある。

といっても、サバイバル術の本ではない。強いて言うなら、個人ではなく文明そのものにとってのサバイバル術の本である。

主語は人間でなく、文明。

どうやって文明を再興させるかが、この本のテーマなのだ。

著者のルイス・ダートネル氏は、文系・理系双方の学問に通じており、あらゆる分野の知識を総動員して文明の再興方法を考察していく。

その考察はあまりに細部にまでわたっているため、とくに理系の学問に明るくない読者は途中で挫折してしまうかもしれない(;^ω^)

 

文明の再興にあたっては、意外にも、化学が重要な役割を果たすようだ。

例えば、農業をやるにしても、まず肥料が必要となり、その肥料を(人工的に)つくるにはアンモニアが必要となり、そのアンモニアは「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる化学的な手法によってつくらなければならない。

こう言うと化学屋の人には失礼かもしれないが、我々は科学文明における化学の重要性を、これまで十分に認識してきたとはいいがたい。その重要性に気づけたことが、本著から得た最大の収穫であった。

 

それにしても、最近つくづく考えることがある。

我々がこうして科学文明を営んでいることそれ自体が、歴史上の最大の奇跡だということだ。

奇跡とは、何だろう。

なにも教祖さまが処女からお生まれになって、湖の上を歩いて渡って、刑死して3日目に蘇る…といったことだけが奇跡ではないのだ(なんか某宗教をdisっているようでスイマセン…)

この大宇宙のなかで絶妙な位置に絶妙な大きさの惑星が生まれ、そこで生命が誕生し、それから何十億年もして知的生命体へと進化し、その知的生命体が文明を興して、ついにその文明が科学文明へと進化していく…その過程自体が、あまりにも多くの偶然の上に成り立った、史上最大の奇跡だったのだ。

 

科学文明は、そうした奇跡の産物である。

そうやすやすと、滅ぼしてなるものか。

 

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた