Furusawa Keisuke's blog

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書評『したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る』

韓国大統領・朴槿恵。その悲惨すぎる末路は、まさにレームダック(死に体)と呼ぶにふさわしいものがあった。

2016年10月に発覚した、友人・崔順実の国政介入問題ーいわゆる「崔順実ゲート事件」によって、支持率はなんと4%(!)にまで低下。これだけでも驚愕の数字なのに、調査した地域や世代によっては0%すら記録したというから、ただただ驚くばかりである。

同年12月にはついに弾劾訴追案が可決。2017年3月現在、朴槿恵は大統領としての職務を停止された状態にある。

 

今回取り上げる『したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る』(NHK出版新書)は、朴槿恵がどうやって成功したかを解説する書籍である。

 

…え、成功?

 

そう、本著が刊行されたのは、2013年3月。まだ彼女が大統領に就任して間もなくの時期である。

2012年12月の大統領選挙では、当初、対立候補であった文在寅のほうが有利と見られていたため、朴の勝利はいささか驚きをもって迎えられた。

どうして彼女が勝利をおさめることができたのかーそれを解説するのが、本著の主なねらいである。

 

本著では朴勝利の理由のひとつとして、2007年大統領選での敗北以降、彼女が「与党内野党」といういささか特異なポジションを維持してきたことを指摘している。

与党のなかにありながら、時の大統領からは距離を置き、ときに批判することをも辞さない。こうした微妙な立ち位置が朴人気をもたらしたのだという。

彼女が主に高齢者層からの支持を集めたのもまた、当選に影響したという。日本でもそうなのだが、韓国でも高齢者のほうが数が多く、投票率も高い。したがって選挙では、若者よりも高齢者の声のほうが通りやすいのである。いわゆる「シルバー・デモクラシー」というやつだ。

「与党内野党」「シルバー・デモクラシー」ーこのふたつの要因が、韓国史上初となる女性大統領を生み出したのである。

 

だが、2017年の世界に住む我々は、すでに朴槿恵が無残なまでに挫折したのを知っている。2012年の大統領選で輝かしい勝利をおさめたはずの彼女が、どうして蹉跌をきたしたのかーこの点を考えることも、実に興味深い。

読書の醍醐味というのは、単に「この本面白いなぁ」だけではなく、「この本で持ち上げられてる人、結局ポシャっちゃったなぁ。どうしてなんだろう」と考えることにもあるのである。

…大雑把に私見を述べれば、朴槿恵が国「内」政治において戦略的にふるまうのには長けていたが、国「際」政治においては必ずしもそうではなかったというのが挫折の一因だと思う。内政(あるいは選挙)の天才が、必ずしも外交の天才とは限らないのである。

 

本著ではこの他にも興味深い箇所が複数ある。そのなかでも特に面白かったのが、「国民情緒法」について触れた部分だ。

国民情緒法とは何か。

NAVERのオンライン辞書では以下のように説明がなされている

「国民情緒にそぐわない行為を法に見立てている。実定法ではない不文律。世論に基づく感性の法で、メディアの影響を大きく受ける。世論に依存し法規範無視の風潮を生むという問題もある」

これを著者はさらに解説する。

≪例えば、商取引や契約を行った当時は私有財産が認められていて、合法的に土地を取得したとする。しかし、あとになって、財産の形成過程が問題にされ、定義も曖昧な<親日>行為を通じて得た財産は不当であるという国民情緒が広がると、その財産を子孫からでも没収するという法が成立することがある。法の適用は、通常は制定時以降に行われた行為に限られるが、韓国では過去にさかのぼって適用することが実際にあった。≫(159頁)

法が過去にさかのぼって適用される! おおよそ近代社会ではありえないことだ。社会学者の小室直樹先生(1932-2010)ならば、聞いてただちに卒倒してしまうかもしれない。

こういう非常識なことがまかり通ってしまうのが、残念ながら現在の韓国なのである。

韓国と仲良くするにせよ、ある程度距離を置くにせよ(はたまた断交するにせよ)、韓国がこのような前近代的な体質を強く引きずる国家であることは、絶対に念頭に置いておかなければならない。

 

本著を読んで、もうひとつ収穫だったのが、韓国で一番「ヤバイ」のは三権のなかでも司法、すなわち裁判所であった、ということだ。

韓国には違憲審査権を有する「憲法裁判所」なる独立した裁判所があり、日本の最高裁とは違って、法律の違憲審査に積極的である。こうしたスタンスは司法積極主義と呼ばれる。

就任当初は「親日」と考えられた李明博・前大統領が急速に反日へと舵を切ったのは、この憲法裁判所から、慰安婦問題について大統領が何もしないのは違憲と判断されたのが原因だという。

韓国ではこのように、裁判所(司法)の権限が強く、国会(立法)や大統領府(行政)がそれに振り回される、というパターンが定番であるようだ。

これを知っておくと、韓国の一見不可解な動きーたとえば対馬の仏像の返還問題ーをよりよく理解することができる。

 

本著は、いわゆる「嫌韓」の人にこそ、読んでほしい本だ。

韓国が嫌いだというのなら、それはそれで別に構わない。無理して仲良くなる必要など、実はないのだ。

だが、韓国が嫌いだというのならなおのこと、まず韓国という国を知るところから始めないといけないのである。

孫子も言っているではないか。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と。

 

…おっといけない、僕としたことが、肝心の著者紹介をころりと忘れていたw(;^ω^)

著者は先日紹介したネクタイを結べない浅羽祐樹・新潟県立大教授である。

 

したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る (NHK出版新書 402)

したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る (NHK出版新書 402)