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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『軍事大国ロシア』

先日このブログで著書を取り上げたネクタイを結べない浅羽祐樹教授と並んで、twitterユーザーの間で強く支持されているのが、ロシアを専門とする軍事アナリスト・小泉悠(こいずみ・ゆう)さんだ。

彼はtwitter上にて、本名をもじった「ユーリ・イズムィコ」なるロシア名を名乗っており、ファンの間では「イズムィコ先生」の愛称で親しまれている。

旧ソ連に関するやたらマニアックな文化的・軍事的知識が、彼の人気の源泉だ。

 

そのイズムィコ先生の手による、なかなかの大著が、今日ご紹介する『軍事大国ロシア』作品社だ。

450ページ以上ある分厚い本著だが、そのわりには意外と軽く、最初手に取ってみたときには「…アレ?」と不思議に思ったほどだ。なにか新種の紙が使われているのだろうか。

 

タイトルに「軍事大国」とあることから分かるように、本著の主な目的は大国・ロシアを軍事的側面から分析することである。

戦後日本人の多くが苦手としているのが、軍事(学)だ。かく言う僕だって、軍事に関する知識は十分とはいいがたいので、偉そうなことは言えない。

最初、この本の厚さを見たときには「…あぁ、これ、挫折するかも…」と弱気になったが(;^ω^)、意外にも最後までスラスラ読むことができた。

前書きにて本著の構成が大まかに説明されているし、各々の章においてイズムィコ先生の論理展開がなめらかだからだろう。

 

本著は、2016年4月に刊行された。

その2年前の2014年には、ロシアがウクライナ領内のクリミア半島を併合するという“事件”が起こった。

これは国際法の禁止する「力による現状変更」にあたるとして、ロシアは欧米諸国から大変な非難を浴びた。

しかしロシアにとって、そうした反応はある程度は予測できたはずである。それでもなお、ロシアがクリミア併合を強行したのはどうしてだろう。

いや、クリミアに限った話ではない。ソ連時代をも含めて、ロシアが絶えず周辺諸国と摩擦を起こしてきたのは、どうしてだろう。

本著を読むと、その答えが分かる。

 

ロシアは、臆病だからである。

 

ロシアという国は有史以来、モンゴル人をはじめとして、ナポレオン、ナチス、と絶えず外敵の侵入に苦しめられてきた。

驚くべきことに、ロシア語には「安全」を意味する言葉がないのだという。近い言葉を挙げるなら「危険が存在しない」という意味の"безопасности"であるが、我々日本語話者に言わせれば、「安全」と「危険が存在しない」の間には、なんとも微妙な隔たりがある。

≪「危険が存在しない」かどうかは仮想敵との力の均衡によって決まる≫(35頁)。

ロシアは、NATOが拡大して自らの眼前にまで迫ってくるのが、怖くて怖くてたまらない。

ゆえにロシアは、自らの前に広大な緩衝地帯ーロシアはそれを「勢力圏」と呼んでいるようだーを設けたがるのである。

この「勢力圏」を求めるロシアの動きが、ときにクリミア併合という暴力的な形をとって現れる、というわけなのだ。

 

もっとも、ロシアは単に怖い隣人というだけでもない。

本著は、ロシアと中国の関係についても1節をさいて説明している(第3章4節)

近年では接近しているようにも見える両国だが、イズムィコ先生によれば、≪中ロはあくまでもアドホックなパートナー関係にあるのであって強固な軍事的同盟ではない≫(114頁)。両国の関係は、つねに緊張をはらんでいるようだ。

一方、ロシアと国境を接しないインドとは、比較的良好な関係のようである。

そこで「よし、それじゃあロシア、インド、日本で対中包囲網を構築しようぜ!」という発想が可能になってくる。

幕末明治の日本人のように単に「おそろしあ」と恐れているだけでは、生産的とはいいがたい。

見方を変えれば、日本にとってロシアはパートナーにもなり得る国なのだ。

 

軍事大国ロシア

軍事大国ロシア