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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『動乱のインテリジェンス』

元外交官にして作家の佐藤優さんと、外交ジャーナリストの手嶋龍一さんは、2006年にタッグを組んで、『インテリジェンス 武器なき戦争』幻冬舎を著した。

論壇における名コンビの誕生である。

以来、ふたりはたびたび対談本を世に出している。

 

今日ご紹介する『動乱のインテリジェンス』(新潮社)もまた、ふたりの対談本のひとつである。

本作が刊行されたのは2012年11月。ちょうど民主党政権の末期にあたる。

 

本著は、一言で言ってしまえば、民主党政権を糾弾する書である。

鳩山由紀夫のイラン訪問、福島原発事故の際の菅直人の対応の拙さなどが仮借なく批判されている。

とりわけ、1章まるごと割いてまで批判されているのが、鳩山のイラン訪問だ。

2012年4月、鳩山“元首相”がイランを訪問して当時のアフマディネジャド大統領と会談、そのなかで現行のNPTやIAEA体制を批判したという“事件”である。

当然ながらこの“事件”は国際社会で(もちろん悪い意味で)大きな反響を呼んだ。同盟国である米国をはじめとする欧米諸国が日本に不信感を抱き、日本政府は釈明に追われることとなったのだ。日本の国益が害されたことは言うまでもない。

佐藤、手嶋両氏は、「元首相」という肩書で勝手にイラン訪問を行った鳩山の無責任さを厳しく批判する一方で、鳩山を招きいれたイランの狡猾さに対してはむしろ“称賛”しているようにすら見える。

イランから見れば、この“事件”はつまり、こういうことなのだ。

…お、調べてみたら、日本に民主党とかいうヴァカ政党があって、そのなかでも鳩ナントカとかいうヤツは輪をかけてヴァカみたいだぞ。しかもどういうわけだかそんなのが「首相経験者」という肩書までもっていて、おまけに先祖代々反米志向だというじゃないか! …いやはや、コイツは使えるゾ。大のお人好しだというから騙すなんてわけないしな。よぉーし!

…というわけで、イランは難なく鳩山を招き入れ、“元首相の口から”NPT、IAEA批判を引き出すことに成功したのであった。

思えば、鳩山サンみたいなアレな御仁が首相になってしまったこと自体、なにかの間違いとしかいいようのない悲劇であった。

こういう悲劇は、そうそうあるものではない(というか、あってもらっては困る)。そんな奇跡的なチャンスを、イランは見事にモノにしたのである。インテリジェンスの世界をよく知る佐藤、手嶋両氏が「敵ながら天晴れ」と称賛を惜しまない(ように見える)のもむべなるかな、という感じがする。

 

鳩山のイラン訪問は、いわゆる「二元外交」の悪いお手本という意味では、非常に有益である。

一般に、悪いお手本は良いお手本よりも役に立つ。映画にしてもそうで、映画の作り方を知るためには良い映画ではなくむしろ悪い映画ー具体例を挙げればエド・ウッド監督の伝説的B級映画『プラン9・フロム・アウタースペース』ーを見たほうが効率的なのである。

鳩山のイラン訪問を手本として、我々は本来あるべき二元外交とは何かを考察することができる。

そういう意味では、鳩山はまことに有り難い存在であった。

 

動乱のインテリジェンス (新潮新書)

動乱のインテリジェンス (新潮新書)