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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『日本国家の神髄』

元外交官にして作家という異色の経歴を持つ佐藤優さんは、その思想においてもまた異色の存在である。

なにせクリスチャンなのに尊王家! 同時にマルクス主義にも精通、ときている。

こういう、ある種ヌエ的なところが、佐藤さんの人気の理由なのだろう。

 

今日ご紹介する『日本国家の神髄』(扶桑社)は、そんな佐藤さんの右翼的な部分が前面に出た感じの著作である。

サブタイトルは、「禁書『国体の本義』を読み解く」。

『国体の本義』とは、1937年、当時の文部省が学者たちを結集して編纂した書物の名。その名のとおり、「日本とはどのような国か」を明らかにすべく、著された本だ。

戦後、GHQによって禁書に指定されたこの本を、佐藤さんが解説するのである。

 

以下、本著のなかで個人的に面白いと思った箇所をいくつか取り上げる。

佐藤さんは、『国体の本義』が、日本が敵対する人々(古代出雲とか)をどのように統合していったのかについて、多くのページを割いている点に注目している。

≪日本は祭政一致の国家である。しかし、そこにおいては、出雲の神々のような差異を尊重し、差異に対してきわめて敏感な祭政一致がとられていることが重要である。寛容、多元性に基づく祭政一致がわが国体の特徴なのである。近代に至るまで、天照大神に対する信仰をもたなかったアイヌ民族や沖縄の人々が、日本国民に統合されていったのも、差異に対してきわめて敏感なわが国体の原理があったからである。≫(115‐116頁)

佐藤さんのお母さんは沖縄出身であり、彼もその意味では沖縄にルーツを持っている。それゆえ、日本が他者であった沖縄を統合していく過程に、人一倍関心があるのだろう。

僕もつねづね、国家に最も求められるのは寛容と多元性だと思っているので、上に引用した箇所にはとても納得できた。

佐藤さんは、さらに踏み込んで、皇統を否定する人たちに対しても寛容の精神は適用されるか、について考察している。

≪この多元性と寛容の精神は、皇統を否定する思想や政治運動に対しても適用される。皇統を否定する思想や政治運動についても、わが国体を現実的に破壊する脅威をもたらさない範囲において、寛容な取り扱いを受ける。このような度量が日本の国体を強化するのである。右翼思想の特徴は、多元性と寛容の精神にあると私は考える。≫(182頁)

「右翼」と聞くと、我々はどうしても、黒塗りの街宣車の上から排外主義的なスローガンを叫ぶ人々を連想してしまう。実際、そういう人も少なくないだろう。だが佐藤さんは、「右翼思想の特徴は、多元性と寛容の精神にある」と考えているのだ。非常に印象に残る言葉だ。

 

「日本人」とは何なのか、という根源的なテーマについても、佐藤さんはとても興味深い見解を示している。

佐藤さんは、『国体の本義』で取り上げられている頼山陽の歌に注目している。

 

花より明くるみ吉野の 春の曙見わたせば

もろこし人も高麗人も 大和心になりぬべし

 

『国体の本義』は、日本の美しい自然が「大和心」を涵養していることの証左としてこの歌を挙げているのだが、佐藤さんはさらに踏み込んで、こう解釈している。

≪大和心を体得することは外国人にも可能なのである。日本という神話共同体は、外部に対して決して閉ざされていないのである。神話を共有すれば、外国人も日本人になれるのだ。裏返して言うならば、日本人でも神話を共有することを怠れば、日本人の「抜け殻」になってしまう危険がある。≫(231頁)

このあたり、昨今の移民問題に関する議論や、はたまたクリント・イーストウッド監督『グラン・トリノ』にも通じる問題提起であり、非常に興味深い見解だと僕は思っている。

 

佐藤さんは、意外にも現行憲法の改正に慎重なようだ。

佐藤さんは、評論家の竹田恒泰さんが現行憲法の第1条を大和朝廷成立以来の天皇と国民のあり方を、率直に表している≫(『正論』平成20年7月号「Nスぺが躍起になった帝国憲法悪玉論を排す」)と評価している点に賛同する。

≪きわめて優れた憲法解釈だ。右翼・保守陣営で、天皇について、「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と規定することに対する抵抗感がなぜか強い。そして、天皇を元首として規定せよという。しかし、天皇は法律用語でいう元首の枠にはおさまらない超越的存在である。≫(338頁)

佐藤さんはさらに、竹田さんの≪私は、今の段階では現行憲法を変えるべきではないと思います。(中略)日本書紀』と『古事記』の存在すら知らない国民が憲法を改めても、今より優れた憲法になるとは、私にはどうしても思えない≫(『正論』同号)という発言にも触れ、≪私も竹田氏の言説を全面的に支持する。建国神話の回復を構築主義的な憲法改正議論よりも先行させるべきだ≫(340頁)と述べ、“現時点での”憲法改正に消極的な姿勢を示している。

傾聴に値する、興味深い見解だと僕は思った。

…なお僕自身は、現行憲法のなかでも第9条第2項に絞って速やかに改正すべし、その他の条文に関しては時間をかけて議論して少しずつ改正していけばいい、という立場である。

 

『日本国家の神髄』、全編にわたって、寛容の精神に満ちた著作であった。

 

日本国家の神髄 (扶桑社新書)

日本国家の神髄 (扶桑社新書)