Furusawa Keisuke's blog

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書評『「第5の戦場」サイバー戦の脅威』

歴史のはじめ、人類にとって戦場とは、陸以外にありえなかった。

やがて造船・航海技術が発達すると、海軍が生まれ、人類は長らくこの陸・海の2軍体制で戦争を遂行してきた。

20世紀に入り航空機が発明されると、あらたに空軍が加えられた。今日では、したがってこの陸・海・空の3軍が一般的な軍隊の編成となっている。わが国の自衛隊にしたってそうだ。

だが21世紀に入り、さらにふたつの空間が戦場に加わりつつある。

すなわち、宇宙空間とサイバー空間である。

 

今回ご紹介する『「第5の戦場」サイバー戦の脅威』祥伝社は、今世紀において現実的な脅威として顕在化した、サイバー戦について論じた著作である。

著者は、伊東寛さん。自衛官として、陸上自衛隊初のサイバー戦部隊「システム防護隊」の初代隊長を務めた人物である。

 

伊東さんは本著前半にて、サイバー戦の実態について解説、サイバー戦が戦争の定義すら変える可能性を指摘している。

「戦争」と聞くと、戦後日本に住む我々一般人は「赤紙の時代じゃあるまいし、自分たちは無関係だろう」などと安直に思い込んでしまう。

だが、サイバー戦においてはそうはならない。我々が用いているパソコンがハッカーに乗っ取られ、我々の知らない間にサイバー攻撃に利用されてしまう恐れがあるからだ(伊東さんは、ネットリテラシーの低い傾向のある高齢者のパソコンがサイバー攻撃に利用される事態を危惧している)

あるいは、一般人が自らすすんでサイバー戦に参加する可能性だって考えられる。

「まさか!」と思われるかもしれないが、現に2008年の南オセチア紛争(ロシアとグルジアの戦争)では、ロシアの民間のハッカーたちが自ら「サイバーパルチザン」と称してグルジア(現ジョージアサイバー攻撃したのである。

このように、来たるサイバー戦時代では、我々一般人も意識的に、あるいは無意識のうちに、サイバー戦にかかわってしまうのだ。

 

本著後半では、伊東さんは各国のサイバー事情について解説している。

主に取り上げられるのは、米国、中国、ロシア、北朝鮮。このうち後の3国は日本にとって脅威となりうる存在である。

最も高度なサイバー技術を有しているのは、ロシア。かつてKGBで諜報活動などに当たっていたサイバー関係の要員が、ソ連崩壊後に政府関係、民間企業、はたまたマフィアなどへ流れ、そこでハッカーとして“活躍”しているからだ。

中国も今日では侮れない。

かつての中国のサイバー戦部隊は、≪朝の仕事開始と同時に攻撃を開始して、昼になったら中止してご飯を食べ、午後になったらまた再開して、五時には攻撃を終了して家に帰る≫(132頁)「昼休みのあるサイバー攻撃」を仕掛けるというおマヌケぶりであった。

もちろんそれは牧歌的な過去の話であり、今日では日本のハッカーは中国のハッカーに勝てない、と伊東さんは警鐘を鳴らしている。

最後の北朝鮮は、ご存じの通り崖っぷちにあり、工業レベルも著しく低い。そんな北朝鮮が着目したのが、サイバー戦であった。≪サイバー戦はそのための要員を育てるのに大規模な工場も多額の経費も必要ない≫(163頁)からだ。

おまけに北朝鮮は、米国や日本とは違い、社会のネットワークが進んでいるわけではない(そもそも国内にパソコンがほとんどない!)。もとより守るべきサイバー空間がないのだ。「守り」を考えずひたすら「攻め」だけを考えればよいわけで、これは北朝鮮にとっては大きなアドバンテージである。

よりにもよってこんな厄介な国々が隣国だというのだから、つくづく日本は隣国に恵まれていないのだと思わざるを得ない…。

 

終章、≪我が国のサイバー戦対処の態勢は、けっして十分とは言えない状況にある≫(242頁)と率直に認める伊東さんは、サイバーデバイド(サイバー戦能力の格差)の一刻も早い解消を訴えている。

我々は、この“国士”の問題提起に真摯に耳を傾けなければならない。

 

「第5の戦場」 サイバー戦の脅威(祥伝社新書266)

「第5の戦場」 サイバー戦の脅威(祥伝社新書266)