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Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサル ルビコン以前』

「ローマは一日にしてならず」(Rome was not built in a day.)

このことわざをそっくりそのまま体現したかのように、塩野七生ローマ人の物語(新潮社)は、実に長大なる歴史文学として完結した。

なにせ全15巻! 分冊された文庫版に至っては全43巻(!)というから、ただただ圧倒されるばかりである。

ここまで長いと、さすがに手を伸ばすのも億劫になる。

 

…そこで、今回は古代ローマの生んだ不世出の英雄、ガイウス・ユリウス・カエサルの伝記部分のみを取り上げてご紹介することとする。

すなわち、『ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサル ルビコン以前』、『ローマ人の物語Ⅴ ユリウス・カエサル ルビコン以後』の2冊だ。

今日は、『~以前』のほうを取り上げることとする。『~以後』は、また明日に譲ることとしよう。

 

『~以前』では、カエサルの生誕からローマ政界への進出、そして彼が従軍したガリア戦争までを描く。

ここでいう「ガリア」とは、現在のフランスのことだ。

いまでこそ「おフランス」などと「お」をつけて呼ばれ、欧州大陸における文化の中心と自他ともに認めるフランスだが、カエサルの生きた紀元前1世紀当時、東方のギリシャ、エジプト、それにシリアなどの先進国ーこの当時、これらの国はまだ先進国だったのだ!ーと比べると、まだまだ発展途上の未開の地に過ぎなかった。

この地において、カエサルは「蛮族」たちを征服し、そのローマ化ーローマ人の言葉で言えば、「文明化」ーを推進していくこととなる。ここが、『~以前』における最大の見せ場となるのである。

 

ガリア戦争のさなか、カエサルが著したのが『ガリア戦記』である。『~以前』では当然、この『ガリア戦記』についての解説もなされる。

塩野氏が注目するのは、『ガリア戦記』の記述の、異様なまでの簡潔さだ。

なにせ一切の前置きなしに、いきなり「ガリアは、そのすべてをふくめて、三つに分れる」という一文から始まるのである。

いかなる目的で書くかについて、一切触れることなく。

(おまけに言えば、『ガリア戦記』において、カエサルは自らのことを一貫して「カエサル」と3人称単数で記述している)

ガリア人たちの砦を攻略する際にローマ軍が用いた巨大な兵器群についても、カエサルは、その寸法を非常に細かく記述している。根っからの文科系だという塩野氏を辟易させるほどに。

こうしたドライかつ緻密な記述のスタイルからは、カエサルが意外にも理科系の感性を備えていたらしいことが垣間見えて、なかなかに興味深い。

 

カエサルの「冒険」ー「戦い」と呼ぶにはあまりにロマンに満ちあふれているので、あえてこう呼ぶーは、なにもガリアだけにとどまらなかった。

ローマに抗うガリア人たちを支援する部族がブリタニア(現イギリス)におり、彼らを成敗すべく、カエサルはガリアのさらに奥、いまだローマ人が誰ひとり足を踏み入れたことのない、ブリタニアの地へと遠征するのである。

このあたりなど、まるで現代のRPG のような展開ではないか! 子供時代にファミコンの洗礼を受けて育った世代としては、読んでいて思わずワクワクしてしまう。カエサルは、もはや完全にゲームの主人公だ。

 

カエサルは最終的に、ヴェルチンジェトリックスという、なにやら舌を噛みそうな名前のガリアの武将を屈服させ、勝利をおさめる。

だが凱旋した彼を待ち受けていたのは、祖国ローマを二分する内乱であった。

その模様を描いた『~以後』については、また明日触れることとしよう。

 

ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上) (新潮文庫)

 
ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中) (新潮文庫)

ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中) (新潮文庫)

 
ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下) (新潮文庫)

ローマ人の物語〈10〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(下) (新潮文庫)