Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『世界史の大転換』

休みの日には、とりあえず室内BGMがわりにテレビをつけて、昼食をとることが多い。

休みが平日のときには、お昼の報道番組を横目で見ながら昼ごはんを食べている。

報道番組のコメンテーターの顔ぶれは当然日によって違うが、何回も見ているうちに、ひとりのコメンテーターが僕の印象に残るようになった。

 

元外交官にして評論家の、宮家邦彦さんだ。

専門家として、複雑に絡み合った国際情勢ーとりわけ、中東ーを、本格的に、かつ分かりやすく解説してくれる。

いつしか僕は、彼のファンになってしまった。

 

今日ご紹介する新書『世界史の大転換』(PHP研究所)は、そんな宮家邦彦さんと、作家の佐藤優さんによる対談本。

新書だからといってバカにしてはいけない。200頁超の本著であるが、そのなかには現下の国際情勢に関する情報がぎゅーぎゅーに詰まっている。

あまりに内容盛りだくさんなので、一読しただけでは十分に頭に入りきらないかもしれない。最低2回は繰り返し読むことをお勧めする。

 

さて、宮家さんと同様、佐藤さんもまた、かつて外務官僚としてこの国のために働いていた。

ふたりとも有能であるから、外務省時代には互いに意識しあっていたようだ。それぞれ、まえがきとあとがきでこう述懐している。

≪外務省時代、私は佐藤優という人と面識がなかった(中略)ただ、「ロシア語の専門職に恐ろしくできる男がいる」という噂は、以前から耳にしていた。≫(3頁)

≪現役外交官時代、私たちは直接的な面識をもっていなかった。ただし「傑出した才能をもつ外交官・宮家邦彦」という評価は、何ヵ所からも聞いていた。≫(233頁)

ふたりは互いに意識しあい、惹かれあってきた。そしてついに、運命の出会いを果たしたのである。

……な~んて書くとなんだかBL小説みたいだなw(;^ω^)

 

本著は、まず第1章で現在の世界を概観したあと、続く各章で世界の様々な地域にフォーカスを当てていく。

内容を大まかにまとめながら、例によって個人的に面白いと思った箇所をいくつか挙げるとしよう。

 

第2章 中東

中東カオスすぎワロタ …の一言につきる。

いくつもの変数が複雑に絡み合っており、それがこの地域の情勢を複雑怪奇なものにしているのだ。読んでいるだけで、目がクラクラしてくる。

近代的な国民国家の建設がいかに至難かが分かる。

 

第3章 中央アジア

中東よりかはマシとはいえ、やはりここも相当カオスである。

この地域の民族問題には、ソ連時代にスターリンが、まるでチェスの駒を動かすように民族をポンポン動かしたことが影響している。また、ソ連の農業政策の失敗のせいで、それまで豊かな農地だった地域が砂漠化してしまった、というケースもあるという。

ソ連という国の業(カルマ)を感じざるを得ない。

また、一般には狡猾とされる中国外交が、ウイグルを含むこの地のイスラームの民族とどう向き合うかという点について明確な方針を示せていない(=狡猾な外交ができない)という指摘も興味深い。

 

第4章 欧州

やはりふたりとも、「国境のない欧州」というEUの夢は潰えた、と見ているようだ。

VWフォルクスワーゲンの不正問題のかげに、ナチスを生み出したプロイセンの悪しき伝統を見出す佐藤さんの視点が新鮮。

 

第5章 アメリカ

本著が刊行されたのは2016年6月、まだトランプ大統領が誕生する前である。

ふたりは、大統領選におけるまさかのトランプ快進撃の背景として、グローバリストのエリートたちと、ナショナリストの貧乏な庶民との対立があると指摘している。後者のほうを、『スターウォーズ』になぞらえて「ダークサイド」と呼んでいるのが面白い。

大統領選の結果は、皆さんご存知のとおり。映画とは違って(w)ダークサイドの勝利となった。

 

第6章 中国

保守の人たちがよく言うのは、「現在の中国はかつての中華帝国と本質的には同じ。だからなんでも中国中心に考える中華思想の呪縛から抜けない」というもの。

だが本著でふたりが言っているのは、現在の中国はかつての中華帝国じゃないからダメだということだ。

≪これらの徹底的な改革(引用註:共産中国の建国、鄧小平の改革開放政策)によって、古代から継承されてきた中国人の「華夷秩序」のDNAが変容しはじめていることも見逃してはなりません。現代中国の尊大さの原因は伝統的「華夷思想」にありと断ずることには無理がある。むしろ中国がその古めかしい「華夷思想」を克服しきれず、近代主義の欧米諸国に対して新たな国家像・国際秩序モデルを示しえないことへの「劣等意識」こそが、その最大の原因ではないでしょうか≫(202頁)

興味深い指摘である。

 

終章 日本

先ほどアメリカの「ダークサイド」の話が出たが、日本の安倍首相において特筆すべきは、グローバリズムナショナリズム(ダークサイド)が彼のなかでキメラ的に混在しているという点だ。

だからこそ、アメリカや、あるいは欧州で顕著になった、グローバリズムナショナリズムの対立構造が、日本ではさほど顕在化していない。安倍首相という特異なリーダーのおかげで、日本の政治はーおそらく先進国のなかではもっともー安定しているのだ。欧米の政府関係者はいまや日本に羨望の念すら抱いているという。

 

 

…このように概観してみると、グローバリストとナショナリストの対立が激化した欧米、あいかわらず国民国家を樹立できないカオスな中東・中央アジア、伝統的な帝国と近代的な国民国家のあいだのなんとも中途半端な状態にとどまっている中国、安倍政権のもとで意外と頑張っている(?)日本、という具合に現下の世界をまとめられると思う。

やはり、外務省の元エリート官僚は、頼りになる。

 

世界史の大転換 (PHP新書)

世界史の大転換 (PHP新書)