Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『予兆とインテリジェンス』

元外交官にして作家という異色の経歴を持つ、佐藤優さん。

本著は、そんな佐藤さんの新聞・雑誌での連載をまとめて書籍化したものだ。

 

本著には、佐藤さんが05年から11年3月にかけて各媒体で執筆した論考が載せられている。

このような構成には、もちろん意図がある。

すべて3.11以前に書かれた時評をまとめることで、日本社会が3.11以前からすでにゆっくりと「壊死」しつつあったことを浮き彫りにするためだ。

本著は、「霞が関と永田町」「外交について」「自らと社会について」という3つの章に分かれている。佐藤さんはそれぞれ、霞が関、外務省、そして日本社会そのものに向けて警鐘を鳴らしているのだ。

 

例によって、個人的に興味深いと感じた箇所を挙げてみるとしよう。

第2章に、「もし核武装のためにアメリカ政府を説得せよと命じられたら」と題した論考が掲載されている。

佐藤さんは、“現時点では”核武装に反対だという。だがインテリジェンスの世界では、自らの考えと異なる仕事を命じられることも、多々ある。この論考のなかで、佐藤さんは「もし日本の核武装についてアメリカ政府を説得せよと命じられたら」という仮定のもと、日本がとるべき行動をシミュレートしているのである。

佐藤さんはまず≪アメリカを説得する場合、アメリカの政治エリートに直接働きかけるロビー活動と、第三国を経由して背後で影響力を与える二つのアプローチを筆者ならばとる≫(149頁)としている。

アメリカの政治エリートのなかから対日政策に影響を与えうる約50人を選び、日本からインテリジェンス・オフィサーを5~10人ほど送り込んで、会合を持たせる。そこで、以下のような筋道で話をするのだ。

1.親米保守時代の終焉(冷戦が終結した以上、保守は必ずしも反共親米である必要はなくなった)

2.日本人の対米感の変化(1943年の大東亜会議の時点で日本がアメリカの侵略主義を弾劾したという歴史的事実を第一次安倍政権が認めた)

3.帝国主義時代の反復(冷戦が終結し、世界はある意味では、第一次大戦以前の帝国主義の時代へと回帰している)

4.核保有は現行日本国憲法によっても認められていること(日本の核武装憲法という基本法の「ゲームのルール」のなかで実現されるということを強調)

佐藤さんは、≪アメリカの政治エリートに対する説得工作はこのような哲学的議論で十分≫(157頁)だとしている。

 

続いて、第三国を経由して影響力を与えるアプローチについて。

佐藤さんはユダヤ・ロビーを通じて、日本の核保有がアメリカとイスラエル国益に合致することを、対日関係とは直接関係のないアメリカの政治エリートに働きかけてもらう≫(157頁)としている。ここでのポイントはふたつ。

1.日本の覚悟を明らかにする(日本が生き残るためには核武装しかなく、そのせいで全世界を敵に回したとしても生き残るという覚悟を日本人が持っていることをユダヤ・ロビーに理解させる)

2.イラン・カードの活用(日本が持つイランに関する情報をイスラエルに提供する)

 

以上のインテリジェンス工作を経て、アメリカ政府に日本の核武装を容認させる、というのが佐藤さんの提言である。

 

…あらためて、佐藤さんの外務官僚としての能力の高さに感服してしまった。

本来であれば、佐藤さんには執筆活動を一時中断してでも外務省に戻り、日本の国益のために働いてもらうべきと僕は思っている。

皆さんはどう思われるだろうか。

 

予兆とインテリジェンス

予兆とインテリジェンス