Furusawa Keisuke's blog

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書評『テロリズムの罠』

僕の友人が、以前こんなことを言っていた。

佐藤優の『テロリズムの罠』って本、右巻と左巻に分かれてるじゃないですかぁ。「右巻」と「左巻」なんて変な名前だなぁ、それをいうなら「上巻」と「下巻」だろ~と思って読んでみたら、右巻のほうは右翼が喜びそうな内容で、左巻のほうは左翼が喜びそうな内容なんですよぉ! さすが、左右両方に詳しい佐藤優ならではですよねぇ~wwwww」

今回ご紹介する佐藤優テロリズムの罠』角川学芸出版は、右巻と左巻に分かれている。それぞれを実際に読んでみて、なるほど確かに彼の言うとおりかもしれないな、と思った。

 

右巻では、ファシズムがテーマ。

本著が刊行された当時(09年2月)大統領に就任したばかりのオバマを、佐藤さんはムッソリーニと似ているとする。佐藤さんは、アメリカにおけるファシズムの可能性を考察していく。

誤解なきよう。ファシズムとナチズムは異なる。

ナチズムは、ファシズムの筋の悪い亜種にすぎない。本来のイタリア型ファシズムには人種概念は希薄だ。かわりにあるのは、国民を束ねる思想である。

たとえばムッソリーニが「イタリア人」と言った場合、イタリア人は現に存在するものではなく、これから意識的に作り出していくものである。イタリア人「である」(be)のではなく、イタリア人「になる」(become)のだ。

同様にオバマも、白人、黒人、ヒスパニック、アジア系などを束ねていくことで、人種を超えて「アメリカ人」を作り出そうとしているのである。佐藤さんはそこに、ナチズムとは区別される意味でのファシズムの萌芽を見出す。

 

一方、左巻のテーマは、新自由主義

佐藤さんは、共産圏の崩壊によって、労働者にアメを与える必要がなくなった資本主義が、より純化された形ー新自由主義になった、と考える。

むき出しの資本主義=新自由主義のもと、労働者は苦しい生活を余儀なくされる。それに抗うための思想を見つけるのが、この左巻のねらいだ。

その思想とは何か。

佐藤さんは、戦前日本で影響力を持った「農本主義」と呼ばれる思想に注目しているようだ。

農本主義とは、≪農業に現れる自然制約性に関する意識をもち、かつ、交換ではなく生産に異議を見出す思想である。≫(138頁)

戦前の右翼思想家・活動家に影響を与えた思想だが、農業共同体社稷(しゃしょく)と呼ばれるーのネットワークを重視するため、アナーキズムとも通じるものがある。

佐藤さんは、この農本主義の代表的論客・権藤成卿(1868‐1937)の著作を取り上げ、農本主義について考察していく。

この権藤の著作は非常に興味深い内容なので、皆さんもぜひ本著を手に取って読んでみてほしい。

 

話はややそれるが、佐藤さんが小林多喜二蟹工船』をこの左巻でも批判しているのが興味深い。批判のロジックは以前紹介した本とだいたい同じだ。

蟹工船』は、作家の雨宮処凛さんが称賛したことがきっかけで、リバイバルブームとなった。その『蟹工船』を批判するということは、佐藤さんは、対談したこともある雨宮さんを間接的に批判しているということになる(もちろん表立って批判はしていないが)

 

さて、右巻と左巻を振り返ってみて、佐藤さんはファシストになりたいのかな、と僕は思った。

佐藤さんはオバマ政権にファシズムの可能性を見出すが、ファシズムという思想を全否定するわけではない。佐藤さんは随所で、ファシズムという思想を“悪魔祓い”する必要がある、と述べている。

佐藤さんが左巻で解説している農本主義にしても、ファシズムと無関係とはいえない。たしかに権藤は軍部による国家改造の動きを批判した。だが、権藤の農本主義にはアナーキズムに通じる部分がある。ファシズムは、意外にもアナーキズムと親和性があるのである。

我々は今一度、戦前の枢軸国の思想に学ぶべきなのかもしれない。

 

テロリズムの罠 右巻  忍び寄るファシズムの魅力 (角川oneテーマ21)

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テロリズムの罠 左巻  新自由主義社会の行方 (角川oneテーマ21)

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