Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『現代の地政学』

皆さんは、「地政学」(英:geopolitics、独:Geopolitik)なる学問をご存じだろうか。

 

地政学とは、地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響をマクロの視点から研究する学問である。

「へぇー、なんだか面白そうな学問だな」と思ったそこのアナタ、残念ながらこの地政学、現代では人気のない学問なんですヨ。

 

どうしてか。

ナチス・ドイツの公認イデオロギーであったからである。

そのせいで、第二次大戦後は「地政学ナチス」という印象がどうしてもついてまわり、不人気な学問となってしまったのだ。

 

ところが現代でも、「地政学って、やっぱり役に立つのでは?」という意見は多い。

僕が近年コミットしている、ある右派系市民団体の懇親会でも、「地政学はやっぱり正しいよ!」という話題でよく盛り上がる。

 

今回ご紹介する、『現代の地政学晶文社も、現下の国際情勢を分析するにあたっての、地政学の有用性を訴える本だ。

著者は、本ブログではもはやおなじみ、作家の佐藤優さん。

本著は佐藤さんの講演を書籍化したものなので、ややくだけた話し言葉で書かれており、とても読みやすい。

講演を書籍化したものには、もうひとつ利点がある。普通の本ではタブーとなるよう内容も、「講演を書籍化したもの」というかたちでなら活字にできるのだ。

本著でも、人種主義の話やネアンデルタール人の混血の話など、普通の本ではまず出てこないような話が出てきて、非常に興味深い(気になる方はぜひ本著を手に取って読んでみてくださいね)

これも講演だから…なのかもしれないが、他の論客への批判も容赦ない。

佐藤さんは、評論家の船橋洋一さんの地政学に関する著書を仮借なく批判する。これはもう、本当に一行ごとにダメ出ししていくので、読んでいてまことに痛快(w

この箇所はまた、良い本を読むよりも、ダメな本のダメな箇所を逐一指摘していくほうがかえって勉強になる、という逆説を我々に教えてくれてもいる(これは、映画に関しても当てはまることである)

 

さて、現下の国際情勢の分析において、地政学の知識が最も役に立つのはどこか。

中東である。

中東というとどうしても「いつも混乱したエリア」というイメージがつきまとう。実際そうだからしかたない。では、どうしていつも混乱してしまうのだろう。安定しないのだろう。

この問いに対し、地政学は、中東はふたつのハートランドユーラシア大陸の中心部たる中央アジアとアフリカ大陸の中心部たるサハラ砂漠をつなぐ交流の場所にあり、さまざまな勢力が行き来するため変動しやすいから、と答える。

ゆえに中東においては混乱こそ必定なのであり、相対的に安定している国(イランとかトルコとか)のほうがむしろ例外に属すと考えられる(※)

つまり、我々は「中東はどうして混乱するのか」ではなく、「中東でも一部の国は安定しているのはどうしてなのか」について考えるべきなのである。

それが、地政学というツールを使うことで得られる知見なのだ。

 

※もっとも、「イランが安定している」というのも、あくまで“中東のなかでは”という話でしかない。

ちょうど先日(6月7日)、イランの首都テヘランにてテロ事件があったばかりである。ISーいわゆる「イスラム国」ーによる犯行とみられている。

本著にて佐藤さんは、サウジとこのISが同じスンニ派として連携し、シーア派のイランに立ち向かう可能性を指摘している。それがいよいよ現実のものになった、ということだろうか。

 

地政学は、決して「終わった」学問などではない。21世紀の世界について考えるうえで、それは大きなヒントを我々に与えてくれるのである。

 

 

 

…これはまったくの余談であるが。佐藤さんの“ネチネチ節”が相変わらず面白いので、いくつかご紹介して本稿の締めとしたい。

≪あまり知的な訓練を受けていない人たちが入ってきて、物語をつくろうとする。この人たちは非常にきまじめではあるけれど、基本的な学術的訓練を受けていないから最終的には毒ダンゴのような大きな物語になってしまう。あえて名前は挙げませんが、そういう政治漫画家とかが出てくるわけです≫(26‐27頁)

≪まったくの一般論ですよ。仮に、関西の某難関高校を卒業して、その後早稲田大学政経学部を一年で中退して、東大の文Ⅲに入ってイスラム学科を第一期で卒業しているおっさんがいるとする。それで神保町あたりの古本屋のオーナーが精神医学に詳しい人かなんかでね、メンタルに問題があるやつは紹介してくれとかって、そのおっさんに頼んでいた。――これ、まったく私の想像の話で、裏取りはしていない話として聞いておいてほしいんだけどね≫(85頁)

 

現代の地政学 (犀の教室)

現代の地政学 (犀の教室)