Furusawa Keisuke's blog

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書評『デフレと円高の何が「悪」か』

本ブログでもたびたび著作を取り上げている、経済評論家の上念司さん。

今日ご紹介するのは、そんな上念さんにとって記念すべきデビュー作となった著書『デフレと円高の何が「悪」か』(光文社)だ。

 

この本のなかで、上念さんは現在の日本を苦しめている「デフレ」なる現象について、分かりやすく解説してくれている。

上念さんは、後輩の倉山さんと一緒になって、『ガンダム』やら『銀英伝』やら、アニメに関するやたらマニアックな話題で盛り上がるという(悪い)クセがあるが、本著はデビュー作だからか、そういったオタク的な記述は抑制されており、たいへん読みやすい文章に仕上がっている。

『銀英伝』なんてよく分かりませんという方でも、安心して読み進めることができるだろう。

 

本著を読んでいると、これまで我々が当然のことと思ってきた経済に関する知識や考え方が、実は当然でもなんでもない、むしろ誤りであったことが分かり、唖然とさせられる。

たとえばニュース番組などでよく見かける、「日本はこのままでは破産する!」という言説。

これは要するに、日本をひとつの家計にたとえているわけである。

普通の家計ならば、借金が膨大な額に膨れ上がれば破産してしまう。そのアナロジーから、日本という「家計」もこのままでは破産の憂き目に遭うぞ、というわけだ。

こうした言説に対し、上念さんはサイボーグ(!)を例に挙げることで反駁している。

今ここに、サイボーグ化されたがゆえに、寿命が無限大になった人間がいるとする。このサイボーグ人間は巨額の借金を抱えており、その返済には3億年(!)かかりそうである。

普通に考えれば破産は必定のように思われるが、ここで注目すべきはサイボーグであるがゆえに寿命が無限大であるという点。

したがって、いくら返済期間が長くても、毎年少しずつでも債務が減っていけば、いつかは借金を完済できるのである。

…いうまでもなく、ここでいうサイボーグとは、寿命というものがない国家のメタファーに他ならない。

人間の寿命はせいぜい80年だが、日本には約2000年、神話時代も含めれば2600年以上もの長い歴史がある。

日本は、死なない。ゆえに、人間の寿命よりもっと長いスパンで、借金を返済することができる。

こうなるともはや、大事なのは借金の額ではなく、借金が少しずつでも減っているかどうか、なのだ。

上念さんのこの巧みな喩えに触れて、読者は「あぁ、なるほど!」と膝を打つことだろう。メディアにたびたび出てくる、日本をひとつの家計にたとえるやり方は、一見分かりやすいように見えて、実は人々に誤った考えを植え付ける悪質な喩えだったのだ。

 

一方、我々が「なんだかよく分からないな」と首をひねっていた歴史的事件は、実はわりと簡単に説明できてしまう、というケースもある。

例えば、世界大恐慌。僕は高校時代、世界史が一番の得意科目だったのだが、なんど教科書を読んでもイマイチよく分からなかったのが、この世界大恐慌が起こった原因であった。きっと、みなさんもそうだったと思う。著者の上念さんすらも、かつてはそうだったらしい。

だが今の上念さんは、この恐慌の原因を実に明快に説明してくれる。

それは、金本位制である。

金本位制が原因で、社会に出回るカネの量が低く抑えられ、デフレ圧力を生んで、最終的に世界大恐慌という最悪の事態に陥ってしまったのだ。

 

上念さんの説明はとても分かりやすく、勉強になる。

だがその上念さんは、中央大の(経済学部でなく)法学部の出身。専門の経済学者ではないのだ。

上念さんはこう述べている。

≪経済学の専門的なトレーニングを受けていない私のような人間がゼロから少しずつ学んだ過程を、多少近道してもっと分かりやすく人々に伝えることができるのではないか? その自学自習のメソッドをより簡潔に分かりやすく組み直せば、もっと多くの方に経済学の知見を共有してもらうことができるのではないか、とひらめいたのです。(中略)断わっておきますが、私は経済学の専門的なトレーニングは一切受けていません。しかも微分積分も超苦手です。しかし、それでもプロの経済学者に認めてもらえました。みなさんだって「やればできる」のです≫(219頁)

「やればできた」経済評論家・上念司の存在は、経済学の素人たる我々に、一筋の希望の光をもたらしてくれるのである。

 

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)

デフレと円高の何が「悪」か (光文社新書)