Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『特高 二・二六事件秘史』

戦前日本の歴史に決定的な影響を与えたのは、二・二六事件であった。

 

この二・二六事件を描いた映画は、数多くある。

たとえば高倉健さんが青年将校の役を演じた東映映画『動乱』は、その代表といえるものだろう。

ところが、同じ高倉健さんが、青年将校ではなく、むしろ相対する憲兵隊の曹長の役を演じた『二・二六事件 脱出』なる映画があったのを、皆さんご存知だろうか?(僕は…ハイ、正直に言います。まったく知りませんでしたw)

この映画には、ちゃんと原作がある。小坂慶助さんという元憲兵の方が書いた当事者手記特高』だ。

今回ご紹介する『特高 二・二六事件秘史』文芸春秋は、その『特高』が文春学芸ライブラリーにて復刻されたもの。解説を担当するのは、本ブログではもはやおなじみ、作家の佐藤優さんだ。佐藤さんは、お得意のインテリジェンスの観点から、『特高』の主人公・小坂曹長の行動を解説してくれている。

 

青年将校たちには、一般に、ピュアなイメージが付きまとう。

二・二六事件に関する書籍には、彼らは農村で娘たちが売られる現状に心を痛め、決起を決意した、と書かれている。もちろんそれ自体に嘘偽りはないだろう。

だが本著を読むと、彼らのまた別の側面が見えてくる。

彼らは、「昭和維新」をスローガンに掲げ、決起した。

このスローガンからただちに分かるように、彼らの念頭にあったのは、明治維新であった。彼らは、自らを明治維新の志士たちになぞらえ、大言壮語していた。

≪「昨日から叛軍の将校の出入りが激しいのです。陸軍大臣は全く詰の状態です。現在、香田大尉、野中大尉、村中孝治、磯部浅一という連中が大臣応接間に、ふんぞり返って大臣や閣下連中を対手に、敬称もなにもあったものでなく、馬鹿野郎呼ばわりで、まるで天下でも取ったような気持で気勢を上げています。聞いていても腹が立つことばかりです!」≫(72頁)

二・二六青年将校たちにはこのように、どこか「イタい」印象がつきまとう。

 

こうしたイタい青年将校たちを見て、僕はある書物を思い出した。

網野善彦『異形の王権』である。

南北朝時代の破格の天皇後醍醐天皇を扱ったこの本によれば、後醍醐天皇のまわりに集った南朝の「悪党」ー今日の言葉のなかでは、「アウトロー」がこれに近いーたちは、ぶっちゃけて言えば某漫画におけるモヒカン頭のヒャッハーな人たちのイメージに、結構近い。

彼らは、既存の社会秩序の(下層というよりかはむしろ)「外部」にいる人たちであった。

彼ら悪党と、二・二六青年将校とが、僕の目にはダブって見える。

天皇を慕い、天皇のもとに集った南朝青年将校は、必ずしも品行方正とはいいがたかった。むしろそれは、彼らと相対する北朝憲兵の側にこそ当てはまった。

南朝青年将校は、もっとアウトローで、ぶっちゃけて言えば、「イタい」人たちであった。

これは、ただし中傷ではない。「イタい」がゆえに、彼らには一種独特の妖しい魅力がつきまとうからである。

 

特高 二・二六事件秘史 (文春学藝ライブラリー)

特高 二・二六事件秘史 (文春学藝ライブラリー)