Furusawa Keisuke's blog

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書評『有頂天家族 二代目の帰朝』

※以下の文章は、『有頂天家族 二代目の帰朝』およびそれを原作とするアニメ『有頂天家族2』のネタバレを含みます。これらの作品をまだ未見で、ネタバレを望まない方は、以下の文章を読まないことをお勧めします。

 

 

このブログではすでに何回も書いてきたことだが、2017年春クールの深夜アニメはもはや有頂天家族とそれ以外」と総括することすら可能であった。

「どこがそんなにいいの?」と訊かれたら、「なにもかも」としか答えようがない。

原作者・森見登美彦さんの描く、人情とペーソスに満ちた和風ファンタジーとしての世界観、P.A.WORKSによる丁寧な背景と作画、主人公・矢三郎役の櫻井孝宏さんの好演、久米田康治さんによるキャラクター原案……なにもかもが、まるでジグソーパズルのピースのように僕の感性にピタリと合致するのだ。

今回ご紹介する一冊は、その原作小説『有頂天家族 二代目の帰朝』幻冬舎である。

 

天狗と狸が跋扈する京の街に、英国から一人の紳士が帰国した。

彼こそが、(かつての)京都一の大天狗・赤玉先生の息子「二代目」であった。

彼の帰国により、新たな物語が動きはじめる。

 

本著の刊行により第二作まで進んだ、『有頂天家族』シリーズ。

第一作のテーマが「家族の絆」だったとするなら、二作目である本著のテーマはずばり「愛」だろう(※)

※アニメ版では、原作中盤の矢三郎と海星のエピソードが最終回のラストに置かれることで、この点がより強調されていた

生真面目だがよくテンパってしまう長男・矢一郎には、しっかり者の雌狸・玉瀾がつき、長いニート生活から脱し着実に社会復帰しつつある次男・矢二郎は、四国への旅の過程で天真爛漫な星瀾を知る。そして矢三郎は、幼馴染・海星とあらためて許嫁の関係となるのである。

登場人物全般の絆から、男女(雌雄?)の絆へと物語の焦点が移ったのが特徴だ。

もっとも、前者のほうの絆も、本著にて相変わらず重きをなしている。

たとえば、五山の送り火の回。恋愛にはオクテの矢一郎と玉瀾がいつまでたってもモジモジしたままなのを見て業を煮やした赤玉先生が、なかば強引にふたりを結びつけてしまうところ。

古き良き日本社会の美点がよく表れた場面だった。

今と違い、昔は「婚活」などという言葉はなかった。

どうしてか。

昔は、赤玉先生のように年頃の男女を結び付けてくれる世話焼きおじ(い)さんやおば(あ)さんが、どの町内にも必ずいたからだ。

今は、そういう人がめっきりいなくなってしまった。だから「婚活」などという空疎な言葉がもてはやされるようになったのだ。

 

本作の第一のテーマが上述のとおり「愛」だとするなら、第二のテーマと言えるのは…これは言葉にするのがちと難しいのだが、「タフネス」とでも言えばいいだろうか。

本作のキーマンである天狗の「二代目」は、いかにも英国紳士然とした清楚な身なりをしており、阿呆ばかりが登場する『有頂天家族』の世界のなかでは異質の存在にも見える。

だがそれはあくまで、彼が維持してきた「鎧」にすぎなかった。

最終回。混乱のなかで、それまで維持してきた洋館や英国紳士としての身なりなどの「鎧」がことごとく破壊されてしまうと、二代目はうってかわって軟弱な一面をさらけ出してしまう。

これは、彼の父・赤玉先生とは対照的である。

赤玉先生は今ではすっかり落ちぶれ、京都の安アパートで暮らし、服装にも無頓着である。それでも赤玉先生は、天狗としての威厳をなお保ち続けている。

二代目には、そんな赤玉先生が備えているようなタフネスは、なかった。

だからこそ、最終回、天狗にとって最大の武器である扇すら投げ捨てて無防備となりながらも、なお天狗としての威厳を捨てない赤玉先生を見て、二代目は泣き崩れたのだ。そして、そんな二代目を見て、赤玉先生は「…強うなれ」と優しい言葉を投げかけるのである。

 

……こうして文章を綴ってきて、あらためて、本作のMVPは赤玉先生だな、と思った。

第一作目では単に「ちょっとカワイイおじいちゃん」程度の印象しかなかったけれど、本作の赤玉先生は、うん、文句なしに、かっこよかった。

 

本作は、もちろん単体で読んでも面白い。

ただ、前作『有頂天家族』がかなりの程度自己完結した小説だったのと比べると、本作はどうしても、来たる第三作目への序章、という印象がぬぐえないのだ。

前作で天下無敵だった弁天は、本作で徹底的に地に叩きつけられてしまった。はたして三作目では彼女の再起はあるのか。

あるいは二代目は、父のような「タフネス」を身に着けることができるのか。

もちろん狸たちのほうも気になる。矢一郎と玉瀾には子供ができるのか、矢二郎と星瀾はくっつくのか、矢三郎と海星はこのまま結婚するのか、矢四郎にもお似合いの雌狸が現れるのか…。

興味は尽きない。

 

森見先生、はやく第三作を書いてくださいっ!(w

 

有頂天家族 二代目の帰朝

有頂天家族 二代目の帰朝