Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『ウルトラ・ダラー』

優れたフィクションは、時として、国際情勢を知るための良い教材ともなりうる。

 

僕の記憶が確かならば、「俺は『ゴルゴ13』から国際政治を学んだ」と豪語した総理大臣がいたはずである。

みなさんにだって、スパイ映画を見て、普段ニュースでは取り上げられない「世界の裏側」を知った、という経験が一度ならずあるはずだ。

 

今回取り上げるインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー(新潮社)も、そんな優れた教材のひとつと言えるだろう。

2002年、アイルランドの首都ダブリンにて、新種の偽ドル札「ウルトラ・ダラー」が発見された。

捜査の過程で、どうやらその偽札は北朝鮮が偽造したものらしいこと、それに携わった技術者は、どうやら1960年代に日本から拉致されてきたらしいことが明らかになる。

日本に住む、本作の主人公・イギリス人スパイが真相解明に乗り出す。やがて話は水面下で進められてきた日朝協議へと飛び火していき……

 

著者は、外交ジャーナリストの手嶋龍一さん。

作家・佐藤優さんとの共著『インテリジェンス 武器なき戦争』など、これまでインテリジェンス(諜報活動)に関する著作を多く上梓してきた。その縁あって、本著の解説を担当しているのは、もちろん佐藤優さんである(w

先に本著を「インテリジェンス小説」と、いささか聞き慣れない言葉で紹介したが、これは佐藤さんが解説にて本著を「日本初のインテリジェンス小説」と説明していることによる。

 

…もっとも、本著を読んでいて、「あ、面白いな」と個人的に思ったのは、インテリジェンスよりもむしろ語学に関する描写だった。

主人公のイギリス人スパイは、日本語ペラペラの日本通という設定になっている。彼はどうやって日本語を習得したのか。

彼は、鎌倉に暮らす日本語教師・オオムラの家で一年間住み込みで日本語漬けの猛特訓を受けたのである。

≪日本の新聞をまず音読させて、知らない漢字に行き当たるとノートに五十回ずつ清書させる。これを来る日も来る日もひたすら繰り返させる。

(中略)

 食事は三度ともオオムラがつくって生徒と共にし、そのあいだもひたすら日本語で日常会話を交わし続ける。(中略)素質のある生徒たちはこの特訓に耐えて、五ヶ月を過ぎたころからめきめきと実力をつけていく。ここから東アジア外交の俊英が数多く巣立っていった。情報活動の分野でも第一級の人材を輩出したのである。≫(54‐55頁)

やはり、語学は短期間に集中して行うのが最も効率が良いのだろう。

佐藤優さんは自らの著書のなかで自らの体験を振り返り、ドイツ語よりロシア語のほうが学習期間は短かったにもかかわらず、ロシア語のほうがしっかり頭に入っている、それは自分がイギリスの語学学校にて正しい教授法に則ってロシア語を学習したからであり、正しい教授法に基づかない独学での語学学習は時間の無駄、とまで言い切っていた。

本著での「オオムラ学校」の描写を見て、あぁ、やっぱり佐藤さんの言うとおりなんだろうな、とあらためて思った。

 

本作はもちろん、純粋にエンターテインメント小説としても楽むことができる。

本ブログの読者の皆様には耳にタコだろうが(w)、真に優れた作品とは、同時に高度の娯楽性をも有しているものなのである。

 

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)