Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『国家の罠』

作家・佐藤優さんのことを、本ブログではこれまで、なかば定型句的に「元外交官にして作家という異色の経歴をもつ~」と紹介してきた。

そもそも、どうして彼は外交官を辞める(辞めさせられる)こととなったのか。

今の若い方はもう知らないかもしれないが、佐藤さんは、いわゆる「鈴木宗男事件」連座して逮捕・起訴され、外交官としての身分を失ったのである。

 

今回ご紹介する本は、佐藤さんが同事件における自らの体験を綴った『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)。佐藤さんにとっては、本著が作家としてのデビュー作となった。

本著の前半では、逮捕に至るまでの、佐藤さんの日ロ外交での活躍が描かれる。ある種、スパイ小説にも似たスリルを楽しむこともできる。

後半は一転、逮捕されて後、佐藤さんと担当検事との対決が描かれる。前半がスパイ小説なら、後半は法廷ドラマ、とでも言ったところか。

ここで佐藤さんの前に立ちはだかるのが、西村尚芳検事である。

本著後半の一番の見せ場が、佐藤さんとこの西村検事との駆け引きなのだ。

ここは、面白い。最初は当然ながら敵対的な態度のふたりだったが、時間がたつにつれて次第にお互いの人間性、置かれた立場を理解し合うようになり、ある種の共感すら見せるようになるのだ。

ふたりのこの独特な関係を分かりやすくたとえて言うなら、ルパン三世』におけるルパンと銭形刑事の関係、とでも説明すれば良いだろうか。

あるいは、ドストエフスキー罪と罰』におけるラスコーリニコフ青年とポルフィーリー判事の関係、と言ったほうが文学ファンには分かりやすいかも。

はたまたもっと砕けて言うなら、漫画『DEATH NOTE』における夜神月とLの関係、とすらたとえてもいいのかもしれない(;^ω^)

≪結局、私は西村氏と一度も握手をしなかった。なぜならば国策捜査というこのゲームで、西村氏はあくまでも私の敵で、敵と和解する余地が私にはなかったからである。しかし、西村尚芳検事は、誠実で優れた、実に尊敬に値する敵であった。≫(353頁)

いわゆる腐女子の女性のなかには、このふたりに一種BL的な関係性すら見い出す人も…イヤさすがにそれはないかな?(;^_^A

 

…失礼、ちょっと筆が走り過ぎた。

本著で面白かった点は、もちろんほかにもある。

先ほどの引用箇所で「国策捜査」なる言葉が出てきた。

国策捜査、これ何ぞ。

これは、捜査方針をきめる際に、政治的意図や世論の動向にそって検察(おもに特捜検察)が、適切な根拠を欠いたまま「まず訴追ありき」という方針で捜査を進めることをいう池上彰池上彰の政治の学校』より

マスコミは、検察の発表を鵜呑みにして喧伝する。国民もまた、そんなマスコミの情報を鵜呑みにする。

本著では、「日本人の実質識字率は5%」というなんとも強烈な皮肉が出てくる。熱心に新聞を読んでいる読者はたったの5%で、その他大勢はワイドショーに振り回される無定見な大衆に過ぎない、という意味である。

僕にはこの国策捜査と、現下のいわゆる「加計学園問題」―実のところ問題でもなんでもないのだが―でのマスコミの尋常ならざる安倍バッシングとが、重なって見えてしょうがない。

ある意味では「加計学園問題」は、検察ではなくマスコミによる国策捜査、と言えるのかもしれない。

 

鈴木宗男事件」という事件名のとおり、この事件の中心人物が、佐藤さんが外務省時代に仕えた鈴木宗男・元衆院議員であった。

本著を読んでいると、この鈴木さんの意外な一面を知ることもできる。

≪鈴木氏には嫉妬心が希薄だ。他の政治家の成功を目の当たりにすると鈴木氏はやきもちをやくのではなく、「俺の力がまだ足りないんだ。もっと努力しないと」と本気で考える。

 裏返して言えば、このことは他人がもつ嫉妬心に鈴木氏が鈍感であるということだ。この性格が他の政治家や官僚がもつ嫉妬心や恨みつらみの累積を鈴木氏が感知できなかった最大の理由だと私は考えている。≫(39頁)

 ≪鈴木氏は、直情的な人物のように見られがちだが、実はとても慎重で、特に政治ゲームに関しては勝ち負けについて実によく計算し、勝算が七割を超えないとリスクを冒すような行動をとらない≫(73頁)

 

佐藤さんは、実に512日間も勾留された末、保釈された。その後、佐藤さんが作家として、論壇で超人的な活躍を見せるのは、もはや周知のとおり。

佐藤さんは、意外にも外務省でのインテリジェンス業務が、あまり好きではなかったのだという。「好きなこと」と「得意なこと」とは異なる。佐藤さんは、本当は静かに本を読んで過ごすのが好きだったのだ。作家生活に入り、佐藤さんはようやく「好きなこと」を仕事にすることができた。

人間万事塞翁が馬。佐藤さんにとっては、国策捜査は結果オーライだったのかもしれない。

 

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)