Furusawa Keisuke's blog

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書評『現代ドイツ思想講義』

日本の保守派の間で、どういうわけだか評判が悪いのが、フランクフルト学派である。

曰く、「日本のサヨクを裏で牛耳っているのが、隠れマルクス主義たるフランクフルト学派であって…云々」といった具合。

ひどい場合には「ジェンダーフリー教育はフランクフルト学派による陰謀!」といったものまである。

これではもはや、イルミナティやらフリーメイソンやらの陰謀論と大差ない。

……実際のところ、フランクフルト学派とは、「ルカーチグラムシの理論をベースにマルクス主義を進化させ、これにヘーゲル弁証法フロイト精神分析理論の融合を試みた、批判理論によって啓蒙主義を批判する社会理論や哲学を研究したグループの他称」wikipediaである。

そのフランクフルト学派について解説しているのが、今日ご紹介する『現代ドイツ思想講義』作品社だ。著者は、本ブログでもたびたび著作を紹介してきた、哲学者の仲正昌樹さん。

 

本著はまず、のちのフランクフルト学派活躍の礎を築いた先人として、ルカーチグラムシなどの思想家が簡潔に紹介され、続けてフランクフルト学派のふたりの中心的人物、ホルクハイマーとアドルノによって書かれた主著『啓蒙の弁証法』について、仲正さんが解説していく。

その後、ホルクハイマーらに続くフランクフルト学派第二世代のハーバーマスが取り上げられ、最後に彼よりさらに下の世代―いわゆる「フランクフルト学派第三世代」たる現代ドイツの哲学者たちが紹介されるのである。

 

本著を読んでいて思わず舌を巻いてしまうのが、著者・仲正さんのドイツ語力である。

ドイツ語の文法、語法、造語法などを、細かいニュアンスに至るまで、実によく理解しているのだ。

本著では上述の『啓蒙の弁証法』はじめ、フランクフルト学派の著作の日本語訳が多く取り上げられるが、率直に言って、これらの本の訳者たちよりも仲正さんのほうが翻訳がうまい。

仲正さんは本著のなかで、たびたび

「ここの~~という箇所は意味が取りづらいですね。ここは原文では~~となっていて、ここを正確に訳すと~~となります。翻訳した○○さんはおそらく~~という理由であえてこう訳したのでしょうが、~~と訳したほうがより適切だと思います」

といった具合に、訳書の翻訳の不備を指摘していく。そして“対案”として仲正さんが提示する翻訳のほうが、確かに日本語の文として分かりやすいのだ。

どうやら仲正さんは、単に書き手としてだけではなく翻訳家としてもすぐれているようで、実際に彼が翻訳を担当した書籍も多数ある。今後、時間の余裕があれば、彼の著書だけではなく“訳書”も読んでみたいと思う。

 

本著は、仲正さんが都内のとある書店にて講演したものをテープ起こしして一冊の書籍にまとめたものである。

したがって、ですます調で書かれているが、語られる内容はたいへん高度。一読しただけではよく分からないだろう。何回も繰り返し読むことをお勧めする。

正直に白状すると、僕自身、まだ本著の内容を十分に理解したとはいいがたい。

まぁそれでも、少なくともジェンダーフリー教育がフランクフルト学派の陰謀でないことだけは、明らかである(w

 

現代ドイツ思想講義

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