Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『13人の誤解された思想家』

タイトルを見ればまさに一目瞭然。

欧米思想史における13人のメジャーな思想家を取り上げ、誤解されがちな彼らの思想を再検討していく、という内容の書籍である。

著者は、小浜逸郎さん。団塊世代ではやや珍しく、保守派の論客として知られる。

 

前書きからして、実に皮肉が効いている。

≪咀嚼、紹介のひと仕事が終わり、さてその「業績」に基づいて、日本での「有名知識人・言論人」としての活躍舞台がそれなりに提供されると、まあ少しは気の利いたエッセイなどを相当数書き込むのですが、そのうちに書くことが底をつくのか、よせばよいのに、何やら不得意領域である「日本の政治」批判などに手を出し始めます。それによって、じつは長年の西欧思想研究と何の関わりもない、小学生なみの幼稚なイデオロギー的認識しか示せないことを自己暴露してしまうのです。これで一丁上がり、そういう人がたくさんいます。誰とは言いませんが。≫(4‐5頁)

内○樹センセイですね、分かります!

 

本著では、持ち上げられる人もいれば、貶される人もいる。

小浜さんは保守派だから、プラトンとかカントとかはたぶん貶すんだろうな、と思っていたら案の定だった。カントは「痩せた人間認識に基づく道徳主義者」と批判され、プラトンに至っては「哲学史上最大の詐欺師」とまでこき下ろされている。

一方、マキャベリは「日本人が最も学ぶべき現実主義者」として評価されている。ここまでは、だいたい予想通り。

反対に、「あぁ、この人は絶対貶されるだろうな」と思っていたら意外にも持ち上げられている人もあり、その代表例がマルクスである。小浜さんは、グローバル時代の今日、マルクス理論が持つ危機指摘の部分は生きているとして、もちろん全肯定はしないながらも、マルクス主義に対し一定の評価をしている。これは意外であった。

 

小浜さんは、横浜国大工学部(※)の出身。つまりは理科系である。

※僕の出身学部でもある。つまり小浜さんは僕の大学の先輩にあたる。

そのためか、本著では、普段「思想家」として考慮されることは少ない、ガリレオダーウィンも俎上に載せられている。それが本著の特色のひとつだ。

彼らの「思想家」としての評価は……本著を読んでね。

 

ここまで、本著のアウトラインを概観してきた。つづいて、個人的に面白いと思った部分を紹介しよう。

フロイトに関する章で、小浜さんはフロイト心理学のユダヤ教的な父権主義を批判し、こう述べている。

≪たとえばアジアでは厳父よりは慈父のイメージが理想とされます。仏様、観音様、阿弥陀様などは、特に男であるという規定は必要とされていません。(中略)

 現実世界でも、昔から日本のお父さんは優しい人がほとんどで、子どもにとってはいろいろな意味で母親のほうが強いということはよく言われることです。つまりアジア的な父親は、幼児に去勢不安やペニス願望など植えつけはしないのです。≫(222頁)

この指摘は、とても興味深い。

昭和のころのお父さんは厳しかった、とよく言われる。そして、そんな父親像へのあこがれが、たとえば「父権の復活」とかいったスローガンで(主に保守派の間で)語られる。

だが小浜さんは、そうではない、昔から日本のお父さんは優しかった、というのだ。

保守派の小浜さんがこう言うのは、なにやら意外に感じられ、面白かった。

 

こうした意外性こそ、本著の最大の魅力といっていいだろう。

 

13人の誤解された思想家

13人の誤解された思想家