Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『日本はなぜ敗れるのか』

評論家・山本七平さん(1921-1991)の著作は、本ブログでもすでにいくつか取り上げている。

鋭い日本社会批判ーといってもサヨクによるそれとは全く異なるーが彼の論考の魅力だ。

今回ご紹介する『日本はなぜ敗れるのか 敗因21カ条』角川書店もまた、山本さんによる日本社会批判の書である。

 

…と言っても、本著には山本さんのほかにもうひとり、“共著者”とも呼ぶべき人物がいる。

戦時中、フィリピンで陸軍専任嘱託として働いた技術者・小松真一さんだ。

小松さんはフィリピンでの自らの体験を『虜人日記』という日記に記した。そしてそのなかで、日本軍が敗北した原因を21カ条にまとめたのである。本著のサブタイトル「敗因21カ条」は、これに由来する。

 

やや長くなるが、21カ条を以下に列挙してみよう。

1.精兵主義の軍隊に精兵がいなかった事(中略)

2.物量、物資、資源、総て米国に比べ問題にならなかった

3.日本の不合理性、米国の合理性

4.将兵の素質低下(中略)

5.精神的に弱かった(中略)

6.日本の学問は実用化せず、米国の学問は実用化する

7.基礎科学の研究をしなかった事

8.電波兵器の劣等(物理学貧弱)

9.克己心の欠如

10.反省力なき事

11.個人としての修養をしていない事

12.陸海軍の不協力

13.一人よがりで同情心が無い事

14.兵器の劣悪を自覚し、負け癖がついた事

15.バアーシー海峡(註:バシー海峡のこと)の損害と、戦意喪失

16.思想的に徹底したものがなかった事

17.国民が戦いに厭きていた

18.日本文化の確立なき為

19.日本は人命を粗末にし、米国は大切にした

20.日本文化に普遍性なき為

21.指導者に生物学的常識がなかった事

本著において山本さんは、小松さんのまとめたこの敗因21カ条について解説していく。

 

本著を読んでいて最も驚いたのは、明治初期の西南戦争のなかに、すでに後の大東亜戦争の惨敗と共通するものが見いだせる、という山本さんの指摘である。

この場合、薩軍が日本軍、官軍が米軍にそれぞれ相当する。

山本さんは、西南戦争大東亜戦争の共通点として、そもそもの開戦原因が不明(!)であること、薩軍に軍事力の相対的計算ができなかったこと、薩軍が近代戦における火力と補給の問題を軽視したこと、鹿児島県民に厭戦気分があったこと、などなど実に多くの点を挙げている。

 

山本さんの薩摩(西郷)批判は、実に手厳しい。

戦前日本の右翼の歴史に詳しい人にとっては釈迦に説法だろうが、西郷隆盛は後の戦前右翼に大きな影響を与えた。たとえば、戦前右翼界の大物・頭山満は西郷を高く尊敬していたことで知られる。

山本さんのスタンスは、そうした戦前右翼とは対極にあると言っていい。乱暴な整理で恐縮だが、戦前右翼が「情」の人たちだったとするなら、山本さんはどこまでもクールな「理」の人である。

 

徹底して冷徹に思考する山本さんが、主に保守系メディアで活躍したという事実は、今となっては驚くべきことだ。

彼のような人は、本来ならばリベラル系メディアで活躍したほうが自然に思える。そうならなかったのは、彼が戦後日本を、戦前日本から断絶したものではなく、かなりの程度、戦前日本から連続したものであり、“戦後左翼の言動にすら”、旧日本軍のそれと通じる部分があることを仮借なく剔出して見せたからだろう。

 

山本さんが「保守論客」として活躍できたという事実は、リベラル陣営の度量の小ささ、裏を返せば当時の保守陣営の懐の深さを象徴しているように、僕には思えてならない。

 

日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条 (角川oneテーマ21)