Furusawa Keisuke's blog

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書評『さらば財務省!』

元大蔵官僚にして経済学者である、高橋洋一さん。

 

僕が彼を強く意識するようになったのは、いわゆる「加計学園問題」においてであった。

マスコミが「安倍首相が友人に不当に便宜を図った!」と言って騒ぎたてるなか、高橋さんはかなり早い段階から、官邸からの不当な介入はなかったこと、「加計学園問題」の真の本質はむしろ既得権益を死守したい獣医師会とそれを打破したい加計学園との対立にこそあることを指摘していたのである。

それから後、国会閉会中審査における加戸守行・前愛媛県知事の証言により、ようやく「加計学園問題」の全貌が白日の下に晒された。そしてそれは、高橋さんの解説の正しさを裏付ける過程にほかならなかったのである。

 

今回ご紹介する著書『さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白』講談社は、そんな高橋さんが、自らの古巣・財務省と決別するに至った経緯を著した本である。

 

学生時代、高橋さんは理系であった。中学の時点ですでに大学レベルの数学の問題をスラスラ解けるほどの学力があったというから驚きだ。高校時代、数学の入試問題に取り組むとすぐに頭がフリーズ状態になってしまった僕には、なんともうらやましい話である。

東大理学部で数学を学んだ高橋さんは、しかしながら希望した就職先に就くことができず、やむをえず当時の大蔵省にしぶしぶ入省したのである。それでも高橋さんは省内で持ち前の頭脳をいかんなく発揮、一時は「大蔵省中興の祖」とまであがめられたのだという。

※この点、作家の佐藤優さんの経歴と似ている。佐藤さんも本来は役人になるつもりはなかったが、語学研修のためしぶしぶ外務省に入省し、持ち前の頭脳を発揮するにいたるのである。

 

高橋さんが理系出身と知って、「ああ、だからか」と腑に落ちたことがある。

高橋さんの時評はいつも、「いい意味で正義感が希薄」なのだ。彼はまるで詰将棋数独のパズルを解いているかのような手つきで、社会問題を扱うのである。

そのほうが、時評をやる上ではかえって良いのかもしれない。正義感はむしろ、バイアスとして機能してしまうおそれがあるからだ。

 

さて、そんな高橋さんが政治の表舞台に躍り出たのは、小泉政権時代のことであった。竹中平蔵・経済財政政策担当大臣のブレーンとして活躍したのである。

本著では、竹中さんの意外な一面を垣間見ることができる。

≪政策立案はさほどむずかしい作業ではない。しかし、国民に向かってわかりやすく説明できる人はいない。それを行うのが大臣の仕事でもあるのだが、竹中さんはその点でも、図抜けた能力を発揮した。

(中略)

竹中さんを評して、学者政治家だ、机上の理論で政治をしてもらっては困るという批判があったが、私はむしろ、逆の見方をしている。もともと政治家としての資質が備わっていた人がたまたま学者をやっていたに過ぎないと理解している≫(140頁)

小泉さんについては、以下のようなエピソードを紹介している。

≪凄いのが、小泉さんが、竹中さんの資質を見抜いて彼を大臣に抜擢したことだ。こんな逸話を竹中さんから聞いたことがある。

 ある時、竹中さんは小泉さんに「どうして自分を選んだのか」と尋ねた。小泉総理はこともなげにいった。

「いや、それはカンだよ」

 竹中さんが「すごいリスクではないですか」と問うと、小泉さんは「そうだよ」と笑った。≫(141頁)

政治の天才とは、政治学の知識を多く持っている人のことではない政治学の知識なぞ関係ない。

求められるのは、勘だ。

小泉さんには、この勘があったのである。

 

高橋さんは、小泉政権の後継である、第一次安倍政権にも内閣参事官として参加した。安倍さんについては、こう書いている。

≪身近で接してみて改めて感じたのは、安倍さんの血筋、育ちの良さである。「政界のプリンス」と呼ばれ、清和会を率いた安倍晋太郎さんの子息だけあって、どことなく品があり、鷹揚な雰囲気があった。一言で表現すれば「お殿様」である。≫(216頁)

しかし「お殿様」であるがゆえに、安倍さんは下々の役人の慣例を無視することがあり、それが第一次政権の崩壊の原因のひとつとなったと高橋さんは指摘している。そして安倍さんと官僚組織との軋轢は、第二次政権の今日もなお、続いている。

 

竹中大臣のブレーンとして小泉政権で活躍することは、古巣である財務省を敵に回す結果につながった。高橋さんは、政界を去って後、財務省には戻らず、現在は大学教授の職に就いている。

高橋さんは財務省増税志向を批判してやまないが、本著ではこう書いている。

≪最後には、関係は冷たいものになったが、財務省には感謝している。(中略)関係がこじれて、古巣からは個人攻撃や妨害も受けたが、財務省に恨みはない≫(280頁)

日頃の財務省批判も、愛ゆえのもの、なのだろう。

 

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白

さらば財務省! 官僚すべてを敵にした男の告白