Furusawa Keisuke's blog

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書評『〈ジャック・デリダ〉入門講義』

本著はタイトルのとおり、哲学者の仲正昌樹さんが、フランス現代思想の大物ジャック・デリダ(1930-2004)を解説してくれるよ、という内容の思想入門書である。

 

以前紹介した『現代ドイツ思想講義』(作品社)と同様、本著もまた仲正さんの講演をほぼそのまま活字化して一冊の書物にまとめたものである。

そのため、仲正さんが聴衆(=読者)に向かって話し言葉デリダの著作を解説する、という体裁をとっている。

 

本著でもやはり、仲正さんのずば抜けた語学力に驚かされる。

仲正さんの専門は、ドイツ・ロマン派の思想である。そのためドイツ語は当然ながらよくできるのだが、フランス語まで堪能とは知らなかった。

デリダは、よくフランス語の言葉遊びをすることで有名な思想家なのだが、仲正さんはフランス語の知識を駆使して、デリダがどのような意図にもとづいてそうした言葉遊びをしているのかを、実に分かりやすく解説してくれるのだ。

デリダは、ハイデガーはじめドイツの哲学の影響を受けながら、フランスで活躍した。そんな彼の思想の解説役として、ドイツ語、フランス語ともに達者な仲正さんは、うってつけの人材だったのだ。

ついでに言えば、ハイデガーもまたドイツ語の言葉遊びを好む哲学者として知られる。仲正さんによるハイデガー解説本として『ハイデガー哲学入門: 『存在と時間』を読む』(講談社)がある。

 

仲正さんは、本著まえがきにて、こう書いている。

≪評論家や研究者の卵、自称哲学ファンたちは、ひたすら難しいものを回避するようになった。たまたま難しいテクストに出くわしてしまうと、「この著者は文章が下手だ」「明晰な表現ができないので読むに値しない」「中身がない!」、などという捨て台詞と共にすぐに拒絶する。自分の理解力が足りないからだとは認めない。哲学・思想史系の院生やオーバードクター、自称評論家などのブログやツイートには、その手の恥知らずな台詞があふれかえっている。≫(4‐5頁)

はーい、僕、そんな恥知らずな自称評論家のひとりでーす! ごめんなさーい!

この仲正さんのコメントは、読んでいて結構、グサリときた。

僕も「本当に頭の良い人は、誰にでも分かる文章を書くものだ。難しい文章を書いてしまう輩は、単に『難しい文章を書いている俺カッコいい』とナルシスティックに自己陶酔しているだけの、ただの愚か者だ」と、つい決めつけてしまいがちだからだ。

だが、デリダは違う。たしかに彼の文章は難解で、何を言わんとしているのかさえ、どうにもよく分からない。

だがそれには実は、深遠な理由があったのだ。それについて解説してくれるのが、本著なのである。気になる人はぜひ本著を手に取って読んでほしい。

 

ソーカル事件以降、難解な用語を好んで用いるポストモダンの思想家たちが総じて馬鹿にされるという風潮が強まった。

たしかに、単にイタいだけの輩もいるだろう。いや多かろう。だが、すべてがすべて、そうというわけではないのだということを、我々は肝に銘じる必要がある。

 

〈ジャック・デリダ〉入門講義

〈ジャック・デリダ〉入門講義