Furusawa Keisuke's blog

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書評『バカでもわかる思想入門』

あれは『週刊新潮』だったろうか。

コンビニで何気なく週刊誌を立ち読みしていたら、面白い連載を見つけた。

それは文芸評論家・福田和也さんによる連載で、福田さんがなにやら口の悪い関西弁のオバサンと対談しているのである。オバサンの名前は記されておらず、単に「オバはん」とのみ表記されている。

一体全体、これはどういう対談なのだろう???

 

そんなナゾ対談が、一冊の書物にまとめられた。

本著『バカでもわかる思想入門』(新潮社)である。

前書きを読んでみてようやく、どういう対談なのかが分かった。

オバはんの正体は、『新潮45』という雑誌の女性編集長のことだったのだ(あれ、ということは僕が見たのは『週刊新潮』じゃなくて『新潮45』だったのか…?)

まださほど歳というわけでもないのだが、あまりの恰幅の良さ&態度のデカさから「オバはん」の通称で通ってしまっているという、哀れな(?)女性編集者であるらしい。

この「オバはん」、編集者としてはヤリ手なのだが、いかんせん教養がない。そこで彼女にも分かるように福田さんが思想についてあれこれ解説してあげる、というのが本著の趣旨なのである。

 

本著は、複数の対談をまとめたもの。それぞれの回で、マルクスフロイトニーチェなどの思想家が取り上げられる。

福田さん、オバはんに加えて、どの回にも必ず、いわばゲストキャラ的な第3の対談者が登場、この3人によって対談が行われる。

ゲストキャラは、それぞれの回で取り上げられる思想家の思想内容とよくマッチした人物が選ばれており、例えば同性愛者として知られるプラトンの回では、「ホモ」(※)の編集者が第3の対談者として登場するのである。

※「ホモ」という言葉は現代では差別語ということになっているのだが、本著ではごくフツーに「ホモ」と表記されている。

 

なんとも突飛な企画のように思えてしまうが、考えてもみれば、これは福澤諭吉がやっていたのと同じことなのだ。

福澤は文章を書くにあたって、女中さんにも分かるレベルで書くよう心掛けていた、と伝えられている。

 

本著における福田さんの解説は、本当に分かりやすい。個々の思想家たちのエッセンスが、実に手際よくまとめられている。

福田さんという人は、カメレオンのような人だ。

いろいろな文体を使い分けられる。

文藝春秋』あたりでは、彼はものすごく高尚な文体で、ものを書く。それは確かに格調高いのであるが、一方で、抽象的すぎて分かりづらい、というのもまた事実である。

その点、本著は実に分かりやすい。僕も「あぁ! 福田さんがあの本で書いていたアレって、こういう意味だったのかぁ~」と思わず膝を打つことが何度もあった。とても勉強になる。

 

それにしても、福田さんの博識には驚かされる。

過去には、『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』という本まで著したことのある、福田さん。さすが、尋常ならざる読書量を誇る知識人だけのことはある(読書量で彼に比肩できるのは、評論家の宮崎哲弥さんくらいのものだろうか)

思えば、先日著作を取り上げたイスラーム法学者・中田考さんも、やはり博識であった。奇遇にも、ふたりはともに、1960年の生まれである。

 

それぞれの対談の末尾には、ご丁寧にブックガイドまでついている。

どれもこれも、読書家の福田さんが厳選してくれたものだ。きっと良い本に違いない。さっそく読んでみたくなった。

 

まさにタイトルに偽りなし、優れた入門書であった。

 

バカでもわかる思想入門

バカでもわかる思想入門