Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『いきなりはじめる仏教生活』

本日ご紹介するのは、まるで旭日旗のようにまぶしい光線の表紙が印象的な(w)、『いきなりはじめる仏教生活』(新潮社)である。

著者は、本ブログではもはやおなじみ、浄土真宗僧侶にして宗教学者でもある、釈徹宗さんだ。

 

はじめに、釈さんはこの行きづまった現代日本社会を概観していく。

「……あれ、今回は仏教の話はあまりしないんだな」と思っていたら、第3章からようやく本格的に仏教の話へと入っていく。

続く第4章では禅仏教が、第5章では釈さんのご専門(w)・浄土仏教が解説される。

禅問答を、心理学でいうところのダブルバインドの概念で説明するあたりは、さすが宗教学者! といったところかw とても分かりやすい解説だ。

浄土仏教の解説も、さすがご本職なだけあって(w)とても勉強になった。

僕はこれまで、浄土仏教は極楽浄土への往生を重視するのでどうしても現世を軽視する傾向がある、と思ってきた。だが釈さんによると、そうした理解は浅はかなのだという。

≪すべての宗教は前世や来世といったこの世界の外部を設定しますが、それは日常からの逃避として機能するのではありません。外部への回路を開いて、今、ここを生きるためにこそ設定されているのです。≫(256頁)

う、うーん。そうだったのかぁ……(;^ω^)

 

第6章では、仏教がいかに日本人の思考に根づいているかが、多くの例とともに説明される。あぁ、なんだか『おてらくご』での解説を思い出すなぁ、と思っていたら案の定、落語の話もでてきた(w

続く第7章では、「聞く」という行為の重要性が語られる。

釈さんによれば、聴覚とは「受動的でありながら主体的な行為」(309頁)という、いささか矛盾した感覚なのだという。そういえば、曹洞宗僧侶の南直哉(みなみ・じきさい)さんが、集中して座禅をやるためのコツとして「聴覚を研ぎ澄ます」ことを挙げていたっけ。

この章でも、釈さんは実にいいことを言っている。引用してみよう。

≪私たちはみんな、何らかの物語の中に生きています。(中略)でも、虚構だから無意味・無価値のものとは考えません。逆です。幻想だからこそ、常にケアし続けていなければ、簡単に崩壊するものだということです。つまり、その物語に耳を傾けようとしてくれるものが誰もいなければ、生を持続することは困難なのです。≫(320‐321頁)

 

本著ではこのほかにも、大乗仏教の経典のひとつ「華厳経(けごんぎょう)を、数学でいうところのフラクタルの概念を用いて解説してあり、これまた分かりやすい。

博識な人は、様々な事象を結びつけて論じることができるから、喩えがとても分かりやすいのだ。

文章の合間合間に、映画の話を喩え話として挙げるところもまた、いかにも映画通の釈さんらしい。

 

親しみやすい話し言葉で文章を紡いでくれる釈さんは、一見すると人の良いおっちゃんのように思える。が、本人に言わせると、意外にも短気な性分であるらしい。

実を言うと、僕もそうなのだ。人からはよく穏健だと評されるが、そんなことはない。本当は気性が激しく、些細なことですぐ激高する性格だ。

そんな人間なものだから、同じく短気である(らしい)釈さんに、ますます親近感を覚えたという次第である。

 

 

……さてと。僕は、書評というのは基本的にその著者を褒めるためのものだと思っているのだけれど、今回はあえて、釈さんを批判して本稿を締めくくることとしようか(w

本著は、一言で言ってしまえば、反近代を掲げる本である。

それでは、その「近代」とはいったい何か。

釈さんの言葉によれば、「欲望を肯定し消費するシステム」である。そして、それを否定し、人々に節制を推奨するのが、仏教にほかならないのだ。

だが僕は、「本当にそれでいいのか?」とどうしても首をかしげたくなってしまう。

欲望を悪しきものとして退けてきた結果が、この長期にわたるデフレ不況、すなわち「失われた20年」ではなかったのか。

とすれば、今求められているのはむしろ節制の反対、すなわち欲望を肯定することではないのか。

昨月ご紹介した『現代ニッポン論壇事情 社会時評の30年史』を読んだ後だと、なおのことそう感じられる。

著名な評論家であり、熱心な仏教者としても知られる宮崎哲弥さんは、たしかある媒体での連載にて「夢の中の火は夢の中で消せ」と書いていた、と記憶している。

資本主義というシステムは、仏教の観点からすれば、しょせん夢のように儚い幻想に過ぎない。だが我々は、容易には夢から覚めることができない。それならば、今やるべきは夢の中の火(デフレ)を夢の中で消す(資本主義というシステムの中で欲望を肯定する)ことではないのか。

 

いきなりはじめる仏教生活 (新潮文庫)

いきなりはじめる仏教生活 (新潮文庫)