Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『おもしろすぎる現代物理』

子供のころ、母がよくこんなことを言っていたものだ。

「ねぇ圭介。高校生になったら、ブツリっていう、ものすごい難しい科目をやらされるのよ。覚悟しときなさい」

どうやら学生時代の母にとって、物理の授業は苦役以外のなにものでもなかったらしい。

僕が実際に高校生になって物理の授業を受けたら、なんだ、あの女はこの程度のことで音を上げていたのかと、我が母ながらなんとも情けなく思えたものである。

 

今日は、その物理に関する本だ。『おもしろすぎる現代物理』サンマーク出版。著者は、サイエンスライター竹内薫さん。

この竹内さん、メディア露出は結構多いほうだ。例のSTAP細胞の騒動のときには頻繁にテレビ出演していたので、顔を見れば「あ~、この人かぁ!」とピンとくる方も多いはずである。

 

本著を読めば、おそらく多くの方が「アレ、物理って、こんなに面白い科目だったっけ?」と驚くに違いない。

そう、現代物理は、面白いのだ。

僕は高校までは文系の科目のほうが好きだったのだが、理科系の学部に入って現代物理学に触れてみたら、「あれ? 物理学って、面白じゃん」と思うようになった。高校で習ったニュートン力学は、つまらなかった。

僕はもともと、宇宙の果てや宇宙の始まり(と終わり)などについて考えるのが好きな人間だったので、現代物理の宇宙論などは僕の知的好奇心をとても刺激したのだ。

 

竹内さんの説明は分かりやすく、かつユーモラスである。

分かりやすさを優先するあまり誤解を招く表現をする場合には、ちゃんと註をつけている。たとえば、「質量」よりも「重さ」と言ったほうが一般人には分かりやすいため、本著ではあえて「重さ」という言葉が使われている。が、物理を勉強したことのある人ならただちに分かるように、両者は厳密には異なる。こういうとき、竹内さんは「本当は意味が違うのだけど」とちゃんと断わりを入れているのである。

 

かの有名なアインシュタイン相対性理論についても、しっかりとした説明がなされている。普通、相対性理論は難解なので、スピードが光速に近づくと時間の流れが遅れるだとか質量が増えるだとかいった、一般人が食いつきそうな表面的な現象ばかりを取り上げ、それで済ませてしまうことが多い。たとえば『ニュー○ン』という某科学雑誌では、見開き2ページのでっかいイラスト付きで「光速に近づくと質量が増える!」とか大仰に紹介して、それでおしまい、みたいなパターンが多い。

本著は、そうではない。あの有名なE=mc2の式だけバーンと出して、ハイおしまい、というのでもない。そうではなく、ちゃんと相対性理論の基礎であるローレンツ変換の話からはじめている。E=mc2の式も、本著付録の章にてちゃんと数式をつかって導出している。そうした堅実な構成には、とても好感が持てる。

 

相対性理論の次は、量子力学だ。ラノベやアニメなどでおなじみのシュレディンガーの猫の話も、もちろん出てくる。

地球が太陽のまわりを回っているように、電子が原子核のまわりを回っている、というモデルは誤りというのは、文系の人々にとっては結構な衝撃なのではないか。では本当のところは? 本著を読みましょう。

 

さて、本著のプロローグにて竹内さんは、文系と理系の垣根を取っ払え、と提言している。

≪さて、世の中には、文系人間と理系人間がいると考えられていて、お互いに相手を理解しがたい人間だと思っていることが多い。あなたが文系であれば、理系の人間は理解できないと感じているかもしれないし、理系であれば文系の人は理解できないと思っているかもしれない。

 でも、文系とか理系とか、そんなにどちらか一方に偏っていいのだろうか。かくいう私は法学系、哲学系と渡り歩いて、理系に落ち着いたのだけれど。≫(34‐35頁)

これは驚き! 竹内さん、かつては文系の学問もやっていたというのだ。それではちょうど僕と対照的ということになる(僕は理系→文系)

そういえば、『生物と無生物のあいだ』でおなじみ、生物学者の福岡伸一さんもかつて文転しようかと真剣に迷ったらしい。ちなみに竹内さんと福岡さんはほぼ同世代である。

竹内さんはこのプロローグの中で、文系でも科学について初歩的な理解くらいは持っておく必要があるし――だからこの本が書かれたのだ――理系でも夏目漱石あたりの小説くらいは読んでおくべきではないか、としている。

双方の学問を身につければ、世界を見る目が広がる。たとえば、アインシュタインピカソがともに「複数の視点で世界を見る」という境地にたどり着いたことを、竹内さんは指摘している。同時に、この「複数の視点で世界を見る」ことが、政治的な意味での相対主義とは異なる、ということもちゃんと指摘しているのである――付け加えると、相対性理論が政治的な相対主義を招いたとしているのが、ポール・ジョンソンの『現代史』である

 

さぁ、皆さんもおもしろすぎる現代物理の世界へと飛び込んでみないか。