Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『ハンナ・アーレント「革命について」入門講義』

作品社は、哲学者・仲正昌樹さんの講演を活字化した書籍を、これまでに何点か刊行している。

本ブログではこれまで、作品社による仲正さんの講演録『現代ドイツ思想講義』『〈ジャック・デリダ〉入門講義』『ヴァルター・ベンヤミン』などの書籍を取り上げてきた。

今回ご紹介するのは、ドイツ出身の女性哲学者ハンナ・アーレント(1906‐1975)をテーマとした、『ハンナ・アーレント「革命について」入門講義』作品社である。どうやら作品社は、『○○入門講義』をシリーズ化するつもりのようだ。

 

あいかわらず驚かされるのが、仲正さんの、国語力も含めた高い語学力だ。

訳者の実名を挙げたうえで、「ここの訳文は『~』となっていますが、これだと意味がとりづらいですね。ここは『~』と訳したほうが、より分かりやすくなるでしょう」と何度も指摘するのだから、なかなかにシビアである。実際、仲正さんの提示する訳文のほうがたしかに分かりやすいのだから恐れ入る。

仲正さん、訳書のほうも、もっといっぱい出してくださいm(__)m

 

さて、本著を通読して分かったのは、ハンナ・アーレントが意外にも言葉の使い方が杜撰だったということだ。

率直に言って文章が下手(!)で意味がとりづらいし、言葉の選び方、使い分け方が哲学者にしてはあまり厳密ではないことが、仲正さんによって指摘される。

もっとも、彼女の分かりにくさは、単に文章が下手だから、というだけではないのだろう。

彼女の思想には、保守的な部分があるかと思えば、革新的な部分もある。双方が混在しているのだ。

たとえば彼女は、ルソーはじめフランス革命の指導者たちの思想に全体主義を見出し(※)、批判している。そういうところは保守主義者っぽいのだが、彼女は意外にもレーニンを評価するのである。

その理由は、彼女が言うところのロシア革命のキーワード、「電化」と「ソヴィエト」にある。アーレントはこのふたつの言葉のなかに、まずテクノロジー(電化)の力によって貧困問題を解決し、つぎに多種多様な立場の人々が集まって評議会(ソヴィエト)において政治の問題――貧困問題はこれに含まれない――を討議する、という彼女の理想とする政治を見出したのだ。

このような意味での分かりにくさは、かえって仲正さんの歓迎するところだろう。仲正さんは過去の著作にてたびたび、「分かりやすい」ということの孕む罠について指摘してきた。「分かりやすい」というのはそれだけ、思想の複雑な部分が削ぎ落され、単純化されているということである。そのような単純化された思想は往々にして、人々を過激な言動へと走らせる。

保守革新の要素が混在していて分かりにくいというのは、むしろアーレントの持つ魅力にほかならないのである。

 

アーレントはルソーを全体主義の元祖として批判するのだが、そんなアーレントのルソー理解には誤解があることが、仲正さんによって指摘される。以前取り上げた『今こそルソーを読み直す』でも書かれていたとおり、仲正さんは意外にも、ルソーが“推し”なのだ。

 

本著では、数ページごとに黒板のイラストがあり、そのなかで議論の要点がまとめられている。とても分かりやすい――あ、この場合の「分かりやすい」はシンプルに誉め言葉ですからねw――親切な構成だ。

巻末に関連書籍が紹介されているのも、我々読書好きにとってはありがたいことだ。