Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『永遠のファシズム』

現代イタリアを代表する作家、ウンベルト・エーコ(1932‐2016)

一昨年に死去するまで、彼は数多くの小説、ノンフィクションを世に出してきた。

本ブログでは以前、ショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』というミステリー映画を取り上げたことがある。その原作小説の作者こそ、何を隠そうこのエーコであったのだ。

 

本日ご紹介する『永遠のファシズム岩波書店は、そんなエーコによる講演録6本を活字化し、一冊の書籍にまとめたものである。イタリア語の原題は"Morale"(道徳)とかいうらしいが、日本語版のタイトルはこのとおり『永遠のファシズム』となっている。

実は、6つの講演録のうちのひとつのタイトルが「永遠のファシズム」であり、日本語版はこれをそのまま本全体のタイトルとして採用した、というわけなのだ。

なるほど、確かに我々日本人にとっては、ファシズムをテーマとしたこの講演録が一番面白いと感じる。他のものは、いかにも欧米のリベラル知識人が言いそうな、「多文化主義を尊重しましょう」だとか「欧州諸国を他民族国家にしましょう」みたいな話ばかりで、率直に言って、あまり面白味がない。

そういう意見に聞き飽きたからというのもあるが、なにより、そうした多文化主義、多人種主義の理念が民衆の側から「否!」を突きつけられた象徴的事件が、一昨年のトランプ大統領“爆誕”ではなかったか。ならば今日、多文化主義、多人種主義を無批判に口に出すのは、いささかナイーブに過ぎるのではないか……そう言いたくなるのである――まぁ、本作は90年代に書かれた本らしいからしょうがないけどねw

 

というわけで本稿では以下、講演録「永遠のファシズム」に話を絞ることにする。

興味深いのは、エーコがこの講演において、ファシズムとナチズムとを明確に区別しているということだ。彼は、ナチズムはスターリニズムと同様全体主義であるが、ファシズムは必ずしもそうではない、としている。

ファシズムはたしかに独裁体制でしたが、その穏健さからいっても、またイデオロギーの思想的脆弱さからいっても、完全に全体主義的ではありませんでした。≫(38頁)

ファシズムは、意外にもバラエティーに富んでいる。以前取り上げた『世界ファシスト列伝』でも書かれていたように、イタリアの元祖ファシズムのほか、イベリア半島バルカン半島、南米、その他世界の多くの地域に、その地域なりのファシズムがあったのである。

では、これら多様なファシズムをまとめる共通要素はあるのか。

ある、とエーコは言う。彼はそれを「原ファシズム(Ur-Fascismo)ないし「永遠のファシズム(fascismo eterno)と呼ぶ。タイトルの由来は、これだったのか。

エーコは本著のなかで、原ファシズムを特徴づける項目を14個挙げている。これらをまとめたものが日本語版wikipedia「ファシズムの定義」という記事に載っているので、気になる方はそちらも見ていただきたい。

簡潔にまとめると、非合理主義、排外主義、マチズモ(男性優位主義)、戦争賛美などがファシズムの特徴と言えそうだ。

これらは、ただの歴史現象ではない。今日においても同様の政治運動は発生しうる、と見るべきだろう。

 

ファシズム、あるいはファシストという言葉は、日本においてはたいていの場合、「このファシスト!」という定番の罵倒の文句からも明らかなように、単なるレッテル貼りのために使用されるのが常であった。だがその「ファシスト」なる言葉の意味は、必ずしも自明ではないのだ。

その点、エーコはやはりイタリア人だから、自身は左派に属すとはいえ、ファシズムなるものをよく理解している。

敵を倒すには、まず敵を知ることから。日本のリベラル左派たちも、エーコに学ぶべきではないか。

 

永遠のファシズム

永遠のファシズム