Furusawa Keisuke's blog

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書評『服従』

昨年の2017年春、フランスにて大統領選挙が行われた。

その前年の2016年にはいわゆる「ブレグジット(イギリスのEU離脱)トランプ大統領“爆誕”というサプライズがあったので、今回はいよいよ極右・国民戦線マリーヌ・ルペン党首が当選して極右大統領――しかもフランス史上初の女性大統領――誕生かと騒がれたものだ。

……結局、新自由主義色の強いエマニュエル・マクロンが当選、史上初の極右大統領は“少なくとも今回は”幻に終わったのだった。

 

本日ご紹介する『服従河出書房新社は、近年フランスで刊行され、大いに反響を呼んだ小説である。著者は小説家、詩人のミシェル・ウエルベック

2022年、大統領選に沸く近未来のフランス。選挙は、極右政党とイスラーム政党との一騎打ちの様相を呈している。はたして勝利を掴むのは、どちらの側か。

移民の大量流入と、それにともなう社会のイスラーム化。この問題に直面するフランスを、しがない大学教員の主人公の視点から描く。

2022年というから、今年から数えて、ほんの4年後。「近未来」というよりかはもう、「現代」と言ったほうが適切なくらいだろう。

実際、本著を読んでいると、同時代性を強く実感する。たとえば本著の主人公は何気なく、スマホを使ったり寿司を食べたりするのである――いうまでもなく寿司は今日ではグローバルな料理の代表格に他ならない

 

ネタバレになってしまって甚だ恐縮ではあるが(^^;)、本著では最終的にイスラーム政党が勝利を収め、フランス社会はイスラーム化を余儀なくされる。

ここで、個人的にはどうしても気になってしまう。ナショナリズムって、そんなにも弱いものか?

たとえEU統合が深化(進化)したとはいえ、たとえイスラーム系移民が大量流入したとはいえ、だからといってフランス人としてのナショナリズムがそうそう簡単に消滅してしまうとは、つまりフランス社会がイスラーム化してしまうとは、僕にはとうてい思えない。

僕には、ウエルベックナショナリズムの力を過少評価しているように思えてならないのだ。

 

もうひとつ、気になる点。

イスラームにはどうしても、女性蔑視という批判が付きまとう。そうした批判には、たしかに的を射た部分もある。

本著では、しかしながら、「男性に従う」というのは見方を変えれば「男性に保護してもらえる」ということでもあるのだから、案外女性にとっても悪い話じゃないんじゃないか、という具合にイスラームが擁護される。

たしかに、そうした見方もあるだろう。それについては、とやかく言うつもりはない。僕が言いたいのは、別のことなのだ。

本著で取り上げられるジェンダーの話は、女性の問題ばかりである。LGBT(性的マイノリティー)が、本著には出てこないのだ。僕には、それが一番気になる。

……意外に思われるかもしれないが、今日のフランスでは、少なからぬ数のLGBTが、極右・国民戦線を支持している。理由は、イスラームがLGBTに不寛容だ(と少なくとも彼らは認識している)からだ。

ウエルベックは、こうした人々の力も過小評価してはいないだろうか。

 

www.bbc.com

 

さぁ、現実の2022年大統領選挙は、一体どうなるのだろう。今からほんの4年後。決して、そう遠くはない未来である。

 

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)