Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『歴史哲学講義』

ドイツ観念論を代表する哲学者・ヘーゲルに、勝手ながら僕は親近感を抱いてきた。

それは、彼が若いころから妙に老成していて、周囲から「老人」という有り難くないあだ名で呼ばれていたからである。

僕自身、さすがに老人呼ばわりされることはなかったものの(w)、いわゆる「若者らしい若者」ではなかった。若者たるもの、もっと溌剌とし、既存の価値観に反抗すべし、という世の風潮には、ずっと違和感を覚えつづけてきた――だいたい、「反抗しろ」と言われて素直に「はい、わかりました。反抗します」と答えてしまう若者は、果たして本当に「反抗的」と言えるのか

 

本日ご紹介する本は、そんなわけで僕が勝手に親しみを感じている(w)ヘーゲル先生の著書『歴史哲学講義』岩波書店である。

ヘーゲルの本」と聞くと、「え~、なんか難しそう……」と尻込みしてしまう方もいるかもしれない。確かに彼の哲学にはどうしても難解というイメージがついてまわるが、本著は彼の大学での講義録を一冊の本にまとめたものなので――ゆえに『歴史哲学講義』なのだ――案外、読みやすい。

とはいえ、そこはさすがドイツを代表する哲学者。読みやすくても、中身はぎゅうぎゅうに詰まっているのだ。

 

本著はおおまかに、プロローグと本編のふたつに分けられるが、「プロローグ」と言っても、その長いこと、長いこと(w)。上巻の半分以上を占める(w

ここでヘーゲルが言っているのは、歴史にはちゃんとした法則性がある、それは自由が次第に実現していく過程だ、ということである。

言うまでもなく、こうした発想が後にマルクスによって批判的に継承されることとなる。「批判的に継承?? どういうこと?」と思われかもしれないが、まぁようするに「基本的なアイデアヘーゲル先生のおっしゃるとおり。だけど僕は100%は賛同しませんからね」ということだ。

周知のとおり、マルクスヘーゲルの哲学を観念論から唯物論へと換骨奪胎し、かの有名な唯物史観を生み出したのである。

このプロローグでの、「歴史がどうだ、理性がどうだ」といった話は、ふだん哲学書など読まない一般の読者さんたちには、抽象的で分かりづらいかもしれない。そういうときは、プロローグをすっとばして本編のほうから読むことをおすすめしたい。本編のほうが、世界各国の地理や歴史など、話が一気に具体的になり、分かりやすくなるからだ。

 

さて、ここからようやく本編である(w

ヘーゲルの言いたいことは実は結構簡単で、ようするに「俺TUEEEE」ということにほかならない。

上述のように、世界史というのは、彼に言わせれば、自由が実現していく過程のことであり、その最先端にいるのが、イギリスやフランス、そして彼の生きたドイツである――否、プロイセンと言うべきか。当時はまだ「ドイツ」という国はなかった

その反対に、アジアは遅れている。どうしようもなくダメダメなのが、中国とインド。これらの国は、停滞から抜け出すことができない。

「中国4000年の歴史」とはよく言われるが、ヘーゲルに言わせれば「中国? 単に歴史が長いだけで、その間ずっと停滞してましたよねm9(^Д^)プギャーwwwwwwwwww」という話なのである。

もっとも、アジアはまだいいほう……なのかもしれない。アフリカにいたってはもっとひどく、≪世界史に属する地域ではなく、運動も発展も見られないから≫という理由で話を端折られているほどである(上巻169頁)。黒人に関する説明も滅茶苦茶で、≪黒人は道徳的感情がまったく希薄で、むしろ全然ないといってよく≫などと平然と書かれている(上巻164頁)。つけ加えると、エジプトは比較的肯定的に言及されるが、エジプトはヘーゲルにとってはむしろアジアに属する国のようである。確かに、かの国は今日でも「中東」として括られることが多い。

 

ヘーゲルの考えでは、世界は西に行けば行くほど良くなる。中国・インドはダメでも、ペルシャはまだマシ、古代ギリシャ・ローマともなると、だいぶ良くなる。

だがそんなギリシャ・ローマとて、奴隷制に依拠していたわけだから、完全に自由な社会ではなかった。本当の意味で自由な社会が誕生したのは近代ヨーロッパにおいてであり、だからこそヨーロッパは素晴らしいのだ!!!――という具合に、ヨーロッパ人たるヘーゲルは自らの社会を自画自賛するのである。

 

本著を読んでいると、よくもまぁここまで徹底して上から目線でものを書けるものだなぁ、と“感心”してしまう。

今日のヨーロッパ人には、こういう本は絶対に書けないだろう。19世紀、つまり欧米列強が世界の分割に乗り出していた時代の哲学者だからこそ、ここまで徹底してナルシスティックな本を書くことができたのである。

ヘーゲルは、しかしながら偏見で凝り固まっていたというわけでもない。当時のヨーロッパの知識人としては、たとえば中国に関する知識をかなり持っているほうである。たとえば、中国人が60歳、すなわち還暦を人生のひとつの単位と見なしていることなど(上巻204頁)、その知識はかなり細かいところにまで及んでいる。ヘーゲルを、ただのレイシストだと決めつけてはならない。

 

どういうわけだか、wikipedia日本語版の「歴史哲学講義」の記事はやたらと内容が充実しており、本著の優れた要約になっている。本著を初めて読むという方は、まず予習としてwikipediaの記事を読み、それから本著を読むと、内容がスムーズに頭に入ることだろう。

 

歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)

歴史哲学講義 (上) (岩波文庫)

 
歴史哲学講義〈下〉 (岩波文庫)

歴史哲学講義〈下〉 (岩波文庫)