Furusawa Keisuke's blog

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書評『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』

本ブログではこれまで、「アジア主義者」と称された戦前の活動家、北一輝石原莞爾などの評伝、著作を取り上げてきた。

本日ご紹介する本は、これまたアジア主義者として有名な、宮崎滔天(1871‐1922)の評伝『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』河出書房新社だ。

著者は、加藤直樹さん。フリーランスのライターであるが、同時にヘイトスピーチに反対する左派の活動家としても知られる。

そんな加藤さんによる本著は、したがって、一般には右派(に近い)と見なされる滔天を左派の側へと奪取する、といった性格が強い。

 

本著の主人公・宮崎滔天は、熊本県の生まれである。

熊本というのは、なかなかに面白いところだ。幕末には、横井小楠という思想家を輩出した。加藤さんによれば、この小楠、吉田松陰とはまた違った観点から近代日本を空想した思想家として、近年注目を集めているのだという。

神風連の乱が起こったのも、熊本であった。この奇妙な反乱については、以前取り上げた渡辺京二さんの本のなかで詳細が書かれていた。その渡辺さん本人もまた、熊本の人である。かくもユニークな思想家・活動家を輩出する風土のもとで、滔天は育ったのだ。

やがて青年となった彼は、大恋愛のすえ結婚するが――当時はまだ恋愛結婚は稀であったことに注意――結婚という言葉が現実に迫ってくるや、彼は躊躇してしまう。

≪「結婚」の二文字が見えてきたとき、彼の中でこの焦りと恋が正面から激突した。このまま志を得ることがないまま結婚し、生活の中に埋もれるのではないかという不安と恐怖に彼は飲み込まれた。≫(78頁)

僕にはこのときの滔天の気持ちが、分かる気がする。政治にロマンを託す男にとって、結婚・家庭なんてのは、単に足枷となるだけではないのか――そういう疑念にとらわれてしまうのだ。

ついでに言うと、僕は結婚にはあまり興味がない。昔からひとりでいるのが好きだったし、今でも合コンなんぞに行くより、ひとりで往年のフランス映画を見たり岩波文庫を読んだりしているほうが楽しい。

 

滔天は、結局のところ、家庭よりも政治活動のほうを選んでしまったのだった(w)。彼はやがて、中国革命に積極的にコミットするようになる。

どうして、中国なのか。

実のところ、滔天は世界そのものを変革したかったのだ。だが日本という国は、世界を変革するにはいささか小さい。

そこで、中国である。中国は面積も人口も、日本とは文字通り桁違いだ。中国で革命を起こしてしまえば、そこを根拠地として世界革命を成し遂げることだってできそうである。

なんとも遠大な計画だが(w)、滔天はこうした考えに基づき、中国革命を支援しようとしたのである。

だが現実の壁は、やはり厚かった。滔天は結局、挫折を余儀なくされる。挫折して、それからどうなったか。

引きこもりになってしまったのである(w

滔天は、1901年の一年間を、東京・上野にて引きこもり生活をやって過ごしたというのだから、笑ってしまう(w

いやぁ、これは僕にとって意外だった。宮崎滔天って、もっと豪傑っぽいキャラだと勝手に思いこんでいたからだ。一年間引きこもりだなんて、意外と僕たちにとって身近な人だったんだな、と親近感を覚えた(w

もうひとつ、本著を読んで意外に感じたのは、滔天はわりと女性性が強い男性だったということだ。

このことは、例えば同時代のアジア主義の活動家・内田良平との対比で明らかになる。

≪「余や喧嘩に怯なり」という寅蔵(註:滔天の本名)に対し、内田は喧嘩が強く大好きであった。要するに、寅蔵が女性的で繊細な面をもつのに対して、内田は一〇〇パーセントの「男」だった。≫(167頁)

本ブログの読者の皆さまならだいたいお察しかと思うが(w)、僕は滔天のような女性性を備えた男性のほうが、圧倒的に好きだ。内田のようなマッチョなキャラは、あまり好みではない。

 

さて、上述のとおり、著者の加藤さんは左派の論客であり、それゆえ、アジア主義を掲げる右翼団体玄洋社に対しては、概して否定的である。

加藤さんは、滔天が天皇に対して冷淡であったことを、彼の遺した文章をもとに指摘していき、彼から「天皇抜きのアジア主義」を抽出しようとしているように、僕には見える。戦前の日本人が天皇に冷淡だったというのは意外に思われるかもしれないが、実は驚くにはあたらない。かの北一輝もまた、天皇を革命の手段と見なしていることから分かるとおり、天皇に冷淡であった。

加藤さんのこうした試みを、僕は素直に興味深いと思っている。僕も、天皇主義とアジア主義は実は両立できないと考えているし、戦前の右翼の問題点は、なにもかもを天皇と結びつけてしまったことにこそある、と思っている。

天皇抜きのアジア主義」という発想自体は良いのだが、僕が本著を読んでどうしても違和感を覚えてしまうのは――まぁこれは加藤さんに限らず、中島岳志さんや松本健一さんにも言えることだが――彼が結局は「やっぱりアジア諸国とは仲良くしないと駄目だよね~」みたいな結論で議論をまとめてしまうところにある。

アジア主義アジア諸国と仲良くしてアメリカとは距離を置きましょう」と短絡的に考えるのは誤りである。僕の考えでは、アジア主義の本質は「帝国主義に抗う思想」であり、今日においてアジア諸国を蹂躙している帝国主義国は、欧米ではなくむしろ中国である。ならば我々は、帝国主義(覇道)の中国に抗うべく、相対的にマシ(王道)なアメリカとの関係を、むしろ強化すべきではないのか。

 

謀叛の児: 宮崎滔天の「世界革命」

謀叛の児: 宮崎滔天の「世界革命」