Furusawa Keisuke's blog

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書評『イスラーム入門』

本ブログではこれまで、イスラーム法学者・中田考さんの著作を複数取り上げてきた。

中田さんの話は分かりやすく、また他のイスラーム専門家たちが取り上げようとしない箇所にも触れてくれるのが、その魅力だ。

本日ご紹介する『イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉』集英社は、サブタイトルの通り、中田さんのイスラームに関する解説が99の章に分けられ、掲載されている本だ。

「99? どうしてそんなに半端な数なの? 100なら区切りがいいのに」と思われるかもしれないが、これはイスラームにおいてアッラーの美名の数が99とされていることにちなむものである。

これら99の章はおおまかに、イスラームの教義、歴史上の偉人たち、現代におけるイスラーム復興運動、などに分けられている。巻末にはさらに、日本における偉大なイスラーム研究家である大川周明井筒俊彦に関する説明も載せられており、とても興味深い。

 

……え、前置きが長いって? それではさっそく本編を見ていくとしよう(w

本著において意外なのが、女性の話である。

イスラームと聞くと、我々はどうしても女性に対し差別的な宗教、というふうに考えてしまう。

中田さんも≪夫の義務は妻の扶養であり、妻の義務は夫の許可なく外出しないことです。≫(141頁)と言うので、やっぱりイスラームは女性に差別的なように思えてしまう。ところがところが。

≪家事や子供の養育は妻の義務ではなく、召使の雇用が夫の扶養義務に含まれます。授乳ですら妻の義務ではなく、夫が乳児に乳母をあてがわなければなりません。近代西欧で作られ日本に輸入された良妻賢母の概念をイスラームに投影することは慎まなくてはなりません。≫(141頁)

どうやらイスラーム社会における女性の位置づけは、我々の想像とはだいぶ異なるようだ――中田さんはサラリと書いているので見落としがちだが、良妻賢母の概念は「近代西欧で作られ日本に輸入された」と述べられている点にも要注目である

 

本著ではこのほか、奴隷に関する話(63章)も興味深いし、イスラーム暦法であるヒジュラ暦に関する話(48章)も面白い。現代のイスラーム世界ではヒジュラ暦と西暦とを互いに変換してくれるスマホアプリが普及している、というのだから笑ってしまう(w

イスラーム建築に関する話(45章)も意外に感じられ、面白かった。我々はイスラーム建築と聞くと、あの幾何学的で美しいアルハンブラ宮殿を思い出す。僕は、ヨーロッパのあのゴテゴテしたバロック建築よりも、シンプルで幾何学的な美のあるイスラーム建築のほうが、個人的には好みだ。ところが……

≪伝統イスラーム学にイスラーム建築という分野はありません。≫(118頁)

えぇ~っ、そ、そんな!

 ≪ムスリムにとって家であれ、店であれ、モスクであれ、自分たちが住み、使う建物はなんであれイスラームの建物です。どんな形であるか、意匠がどうであるか、また建てた者がムスリムであるか異教徒であるかなども誰も気にしません。≫(118頁)

つまりイスラームは、建築様式にはあまりこだわらない宗教だということだ。中田さんによれば、現に東アジアには木造瓦葺きのモスクもあるのだという。

これは興味深い。我々はモスクと聞くとすぐにタージマハールみたいな中東っぽい建物を連想してしまうが、べつに日本のお寺のような外観のモスクがあったって、構わないのだ。

 

本著を読んでいると、イスラームに関する理解がぐんぐん深まっていく。

中田さんは、しかしながらこうクギを指すのも忘れてはいなかった。

≪私たちは自分が理解できることしか理解できません。そして自分が理解できることを本当に理解するとは、理解できる限界まで理解することであり、自分の理解の限界を見極めることでもあります。言い換えれば、自分には何が理解できて何が理解できないのかを理解することです。≫(17頁)

中田さんの、研究者というよりかはむしろ教育者としての顔がうかがえる、実に含蓄に富んだ一節である。