Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『ファシズム』

本ブログではこれまで、ファシズムに関する著作を複数取り上げてきた。

このうち、『建築家ムッソリーニ』は興味深い本ではあったが、話が主にイタリアの、それも建築に絞られており、『世界ファシスト列伝』は独伊だけでなく世界各国のファシズム政党、ファシスト政治家を取り上げた良著であったが、どうしても入門書としての性格が強い。

もう少し本格的に、つまり学術的にファシズムについて勉強したいという人は、さてどんな本を手に取ればいいのだろう。

そこで本日ご紹介するのが、タイトルもずばり『ファシズム岩波書店である。著者は、政治学者の山口定さん(1934‐2013)

 

本著は、主に独伊日の枢軸国三ヶ国を取り上げており、イタリアの元祖ファシズム、その変種としてのドイツのナチズム、そして日本のいわゆる「天皇ファシズム」の三つが俎上に載せられ、検討される。上述の『世界ファシスト列伝』ではおそらくは意図的に天皇ファシズムが無視されていたが、本著は天皇ファシズムと正面から向き合っているのが特徴だ。

もちろん、これら三国以外にも、東欧、南欧諸国のファシズムが取り上げられている。

 

本著は、「ファシズムとは何か」と題された第一章から始まり、第二章「運動としてのファシズム」、第三章「思想としてのファシズム」、第四章「体制としてのファシズム」、そして第五章「ファシズムの歴史的位置」……という具合に論が進められていく。

ファシズムとは何か。

この問いに一言で答えるのは至難であるが、山口さんはまず、ファシズムの運動面での特徴――これが一番説明しやすいらしい――を挙げ、次に思想面での特徴、最後にファシズム政権の政治体制としての特徴を指摘している。そうした理路をたどることで、ファシズムのアウトラインを描こうとしているのだ。

 

山口さんの記述は非常に学術的であり、あまりに細部にわたって説明がなされるので、僕のような門外漢は読んでいて頭が痛くなるほどだ(;^ω^)

だがもちろん、読んでいてハッとさせられることも多い。

たとえば、日本とポルトガル、それぞれのファシズム体制が似ているという指摘。

僕はこれまで、天皇ファシズムは独伊とはだいぶ異なる独特のものであり、他に類例がないと思っていた。だが山口さんによると、体制がなし崩し的にファシズムへと移行したという点で、天皇ファシズムポルトガルファシズムと似ているのだという。これは勉強になった。

ファシズム運動の主要な担い手となったのが、いわゆる「インテリ崩れ」だったという話も面白い。たとえばゲッベルスは大学で歴史や文学を学んだ知識人であったが、卒業後は貧困にあえぎ、長く不遇の時代を過ごした。そんな彼の前に現れたのがヒトラーであり、彼のおかげでゲッベルスは“才能を開花”させることができたのである――もちろんそれはドイツにとって、世界にとって、不幸な出来事だったのだが

若き日のゲッベルスが味わっただろう屈辱が、僕にもなんとなく分かる気がする。……と書くと「なんだ、お前はよりにもよってナチの高官なんぞに共感するのか!」と怒られてしまいそうだ。僕はもちろんネオナチではないが、大学卒業後に貧困であったり不遇であったという点では、ゲッベルスとさして変わらない。すなわち僕もまた「インテリ崩れ」である。

この他、没落した中間層がファシズムを支持するという指摘も、今日の世界情勢を考えると、非常に興味深い。単なる貧民ではなく“没落した”中間層というところがポイントだ。彼らは没落した(=元々はそこそこ裕福だった)がゆえに、強いルサンチマンを抱えている。

周知のとおり、今日の欧米先進国でも中間層の崩壊が叫ばれている。世界を驚かせたトランプ大統領当選についても、「プアホワイト」と呼ばれる没落した中間層の白人たちが彼を支持したことが原因であった、と指摘されている。

これから先、彼らが21世紀のファシズムの担い手となるのだろうか。欧米での極右の台頭を見ると、確かに可能性としては考えられる。

 

さて、本著にはもうひとつ、魅力がある。巻末にある文献目録が非常に充実していることだ。

山口さん曰く≪予想を越える仕事となって投げだそうかとさえ思った≫(410頁)ほどの大仕事である。山口さん、投げ出さないでくれてありがとう。とても参考になります。

 

ファシズム (岩波現代文庫)

ファシズム (岩波現代文庫)

 

 

この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『ヨーロッパ新右翼朝日新聞社

近年、ヨーロッパ諸国で急速に台頭しつつある、極右をテーマに取り上げた本。複数の著者たちによって書かれており、山口定さんが編者となっています。

20年前に書かれた本なので情報がやや古いのが難点ですが、本著を読むと、フランス大統領選の決選投票にまで駒を進めた極右政党・国民戦線(FN)がいかなる歩みをしてきた政党なのかが分かります。

 

ヨーロッパ新右翼 (朝日選書)

ヨーロッパ新右翼 (朝日選書)