Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『日本人とユダヤ人』

評論家・山本七平さん(1921-1991)の著書『日本人とユダヤ人』は、一風変わったかたちで世に出ることとなった。

山本七平さんの著書」とさらりと書いてしまったが、実を言うとこの本、当初は山本さん名義ではなかったのだ。「イザヤ・ベンダサン」なるユダヤ人によって書かれ、山本さんがそれを翻訳したという“設定”で世に出たのである。

その後、イザヤ・ベンダサンが実のところ架空の人物であり、実際には山本さんが『日本人とユダヤ人』の著者であることが、もはや公然の秘密となった。そのためか、今回ご紹介する角川oneテーマ21シリーズでの復刻版では、当然のように「著者 山本七平」とクレジットされるに至った(w

どうしてまた、このようなややこしい“設定”が採用されたのだろう。おそらくは、山本さんの日本社会を見る目があまりに冷徹すぎるので、日本社会にとって完全に外部の存在、すなわち日本人にはあまり馴染みのないユダヤ人の作としたほうが読者に納得されやすい、との判断が働いたのではなかろうか。

 

さて、解説に入ろう。

イザヤ・ベンダサンもとい山本七平さんによる『日本人とユダヤ人角川書店。複数の章によって構成されるが、各々の章は独立しており、どこからでも読み始めることが可能である。

このなかで個人的に最も面白いと感じたのはやはり、中盤で連続3章にわたって展開される「日本教」の話だ。周知のとおり、この日本教なるアイデアは、その後、評論家・山本七平の思想の核となった。

日本教について一応解説しておくと、宗教に関する日本人のエートス(行動のパターン)のことである。山本さんに言わせれば、仏教もキリスト教も日本に入ってきたとたん、「日本教仏教派」「日本教キリスト教派」へと様変わりしてしまうのだという。

この日本教の話のなかで触れられる西郷隆盛の話が、興味深い。西郷といえば、今年の大河ドラマの主人公。150年経った今日でもなおドラマの主人公になるくらいだから、日本人の西郷に寄せる愛は、尋常ではない。

本ブログでもたびたび書いているように、西郷はまた、頭山満はじめ戦前の右翼たちにとって、あこがれの的でもあった。

どうして西郷は、これほどまでに日本人に愛されるのだろう?

山本さんの答えは、西郷が日本教の体現者であり、また殉教者でもあるから、というものだ。

なるほど、「日本教の体現者」という観点から西郷を見れば、たしかに彼の人気の理由が分かるような気がしてくる。このあたりの記述は面白いので、ぜひ本ブログ読者のみなさまも実際に本著を手に取って読んでみてほしい。

これを機に、西郷自身の書いた本を読んでみたいな、と僕は思った。

 

このほかにも、面白い話はたくさんある。

たとえば、全会一致についての、ユダヤ人の考え方。我々日本人は全会一致を素晴らしいと考えるが、ユダヤ人は反対に、胡散臭いと感じるらしい。古代ユダヤの裁判所では、全会一致での採択は無効とされたという。ユダヤ人は、全会一致は正常ではない、なにか異常な事態が起こった結果と考えるらしいのだ。

≪日本では、「全員一致、一人の反対者もない」ということが、当然のこととして決議の正当性を保証するものとされている。時には、多少の異議があっても、「全員一致」の形を無理にもとる。もっと極端な場合は、明らかに全員ではないのに、全員の如くに強弁する。たとえば「全国民が一致して反対している安保を強行し……」といった言い方である。これはどう考えてもおかしい。少なくとも国会で賛成の投票をした人は賛成しているはずであるから。≫(113頁)

山本さんはここで、1960年安保闘争を例として挙げているが、同じことは2015年の安保法制をめぐる与野党ないし左右の攻防についても言えるだろう。

 

あるいは、関東大震災の話。

この未曾有の災害のさなか、朝鮮人が虐殺されたのは周知のとおり。

どうして彼らは殺されたのか。

実は、彼らが被災中にやっていたことは日本人のそれとなんら変わらなかったのだという。それではますます「どうして?」との疑念が募る。

答えは、「彼らが朝鮮人だったから」である。

「え、本当にそんなのが答えなのか?」と皆さん訝しく思うことだろう。だが、本当にそうとしか言いようがないである。山本さんは≪従ってこれは、異種族への動物的・本能的拒否とでも言う以外に説明がつかないであろう≫(213頁)と書いている。あまりに救いがなさすぎる答えゆえ、読者は暗澹たる思いにとらわれることだろう。

良著はときに、読者を鬱にする。ちょうど名画が、ときに観客を鬱にするのと同じことである。

 

本著『日本人とユダヤ人』から、イザヤ・ベンダサン……じゃなかった、評論家・山本七平の快進撃が始まった。

「山本社会学」の記念すべき第一歩――それが、本著だ。

 

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

 

※今回僕が読んだのは、角川文庫ソフィア版ではなく、角川oneテーマ21版です。引用箇所のページ番号もそちらに依拠します。ご注意ください。