Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第224回)

・『恋人たち』

「恋人たち」だなんて、実にロマンティックなタイトルだから、てっきりラブコメなのかと思いきや……

いやぁ、とんでもないタイトル詐欺(w)。実に暗い映画だった(w

だが、駄作というのではない。むしろ逆だ。現代の鬱屈とした日本社会を見事に描き出した、社会派の傑作である。

本作は、群像劇。妻を無差別殺人で殺された青年や、元皇室追っかけの主婦、軽薄な弁護士といった面々の、陰鬱な毎日が描かれる。見ているこっちのほうまで暗い気分になるほどだ(;^ω^)

ところが終盤、登場人物たちがにわかに「癒される」。ラスト、青年が高架の合間から青空を見つめる場面で、本作は幕を閉じる。

唐突な印象があり、はじめはどういうことかと戸惑ったが、要はこういうことだろう。

本作は、「ヨブ記」なのである。

旧約聖書の「ヨブ記」では、善良な信徒・ヨブが神によって過酷な試練にさらされる。「どうして自分ばかりが不幸に……」と嘆くヨブに、終盤、ようやく神は語りかける。神との問答を経て、ヨブは“悟り”、神は彼を試練から解放する。物語は、その後ヨブが幸せになったと伝える。

問題は、このときの神とヨブの問答だ。神の言い分はほとんど“逆ギレ”に近く、率直に言って、意味が分からない。答えになっていない。だが僕の理解によれば、答えになっていないということこそが答えなのだ。

それまでヨブは、「善良な信徒であれば救われる」と思っていた。だがそんなのはしょせん、人間の発想に過ぎない。神には神の論理があり、神に人間の論理は通用しないのだ。ヨブがそれを“悟った”からこそ、神は彼を試練から解放したのである。

話を本作に戻すと、登場人物たちは当初、「善良な人が報われないこの世界はおかしい」と考えていた。だがそんなのはしょせん人間の発想にすぎない、世界は人間の論理とは異なる論理で動く――そう悟ったからこそ、ラスト、彼らは癒されたのである。

 

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・『ミイラ再生』

まさに邦題のとおり、エジプトで古代のミイラがよみがえり、ナゾの魔力を駆使して人々を苦しめるという内容の、1932年公開の娯楽映画である。原題は"The Mummy"であり、まさしくミイラ男(mummy)こそが主人公だと分かる。

本作でミイラ男を演じたのは、1931年公開の『フランケンシュタイン』にて、怪物を演じたボリス・カ―ロフである。こういう役がお得意だったのねw(^▽^;)

まぁさすがに、21世紀の今日見ると、陳腐という感が否めないが、当時の観客はワクワクしながら本作を見たんでしょうねぇ。

なお、1999年公開の映画『ハムナプトラ/失われた砂漠の都(原題:The Mummy)は、本作のリメイクである。

 

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・『密告』

ナチス占領期の1943年に制作されたフランス映画。監督は、以前取り上げた『恐怖の報酬』アンリ=ジョルジュ・クルーゾーである。

フランスのとある村。村人たちのプライベートを暴露するナゾの怪文書が次々とばらまかれ、村人たちはパニックに陥る。はたして犯人は誰か。主人公の医師は調査を開始する。

ミステリー映画としてももちろん楽しめる本作だが、個人的にはやはり「ナチス占領期」という制作時期を考えずにはいられない。本作において「カラス」を名乗る犯人は、ゲシュタポのメタファーではないのか。

もっとも聞くところによると、当のクルーゾー監督自身はむしろコラボラトゥール(対独協力者)だと疑われたそうだから、皮肉な話である。

本作は、今日のネット社会を予言した映画、と考えることもできよう。このようにいろいろな見方ができるのは、名画である証だ。

 

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・『名探偵登場

エルキュール・ポワロ、ミス・マープル、サム・スペードなど、小説や映画における有名な名探偵キャラクターたちが多数登場する、1976年公開のコメディ映画である。

まさに「名探偵オールスター」といった豪華な趣きだが、各キャラクターたちはパロディ化され、名前をビミョーに変えられて出演している。

ナゾの大富豪・トウェインの館に招かれた名探偵たち。晩餐の席にて、トウェインは「時計の針が真夜中の零時を告げる時、このダイニング・ルームで誰かが殺されるだろう。この殺人事件を解いた者には世界一の名探偵の名誉が与えられる」と告げるが、その当のトウェインが、午前零時、謎の死を遂げてしまう――彼の殺され方自体、『オリエント急行殺人事件』のパロディであるらしい。さぁ、気になる真犯人は!

ミステリーが大好き!という方なら、本作はまさに抱腹絶倒モノの映画だろう(w

もっとも、アジア系の名探偵「シドニー・ワン」の役を白人俳優が演じてしまうあたりは、やはり70年代という時代の限界か。

 

 

・『アレノ』

フランスの文豪エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を、現代日本に置き換えた作品である。

病弱な夫とその妻、そして夫の幼馴染の男性――実は妻と不倫関係にある――の3人がボート遊びをしていたところ、ボートは転覆、夫は行方不明となる。実のところこれは、夫を殺すために妻と男性が仕組んだ“事故”であった。

ところが、夫の遺体はなかなか上がらない。ふたりが情事にふけっている間に、夫は亡霊となってふたりの前にたびたび姿を現す。彼の“存在”は、次第にふたりの関係に影響を及ぼしていく。

本作を見ていると、「死人に口なし」どころか、死者は生者以上に、生者のふるまいを強く規定するということがよく分かる。

 

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