Furusawa Keisuke's blog

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書評『大本襲撃』

本ブログではこれまで、日本のアウトサイダーたちは必ずしも天皇を敵視してはいなかった、という話を繰り返ししてきた。

むしろ逆だ。アウトサイダーこそ、「天皇は俺たちの味方だー!」と自らを鼓舞しつづけてきたのである。

天皇は社会的弱者に寛容であり、弱者こそ天皇に吸引される、という図式がそこにはある。

 

だが、ここでひとつ、留意してほしい点がある。社会的弱者が宗教団体をつくり、その宗教が天皇の権威を相対化しようとした場合には、天皇制国家は牙をむき出しにしてその宗教に襲い掛かる、という点だ。

かくして壊滅的打撃をこうむったのが、大本(おおもと)教と呼ばれる戦前の神道新興宗教である。

本日ご紹介する『大本襲撃 出口すみとその時代』(新潮社)は、天皇制国家による大本教の過酷きわまる弾圧を描いたノンフィクション。サブタイトルからも分かるとおり、本著において言うなれば“主人公”として詳細に描かれるのが、大本教の教祖・出口なおの娘、出口すみ(1883‐1952)である。

皇室とは対照的に、代々、教祖の女系女子が教主を継いでいく大本教において、彼女は二代目教主として、苦難の時期の教団を導いたのだった。

 

大本教は、1921年に一度、不敬罪容疑で国家権力からの弾圧を受けている。これは、「第一次大本事件」と呼ばれる。このときは、すみの夫・出口王仁三郎が逮捕される程度でとどまり、その王仁三郎も大正天皇大葬にともなう恩赦のため、釈放された。

弾圧は、しかしながらこれだけでは終わらなかった。1935年、今度は「第二次大本事件」と呼ばれる弾圧が大本教を襲ったのである。このときの弾圧は前回よりもはるかに徹底しており、ほぼすべての幹部、主要な信者が逮捕されたのはもちろんのこと、教団内での印刷物の発禁、さらにはダイナマイト(!)による教団施設の徹底的な破壊までがなされたのだった。

本著では、当時の警察の側から見た大本教弾圧の様子が、迫力ある筆致で描かれていく。本著の資料は充実しており、巻末には、後述する第二次大本事件の裁判の資料までもが掲載されているほどである。

 

大弾圧の後に大本教を待っていたのは、不敬罪に関する裁判であった。裁判は長きにわたり、実に大東亜戦争終結した後まで続けられた。戦後、刑法が改正され、不敬罪は消滅した。これにより、大本教の無罪が確定したのである。

大本教弁護団は、国に対し損害賠償を請求すべき、と王仁三郎に進言したらしい。だが彼は、戦後の混乱と貧困のなかにあって、国民の血税に負うことは忍びないとして、損害賠償――それは当時の価格にして数億円にも上ったという――の請求権を放棄してしまった。

こうしてなんとも特異なかたちで、第二次大本事件は幕を下ろしたのである。

 

……ここで、恥ずかしながら、ひとつ告白をしておく。僕は無知なものだから、大本教はてっきり第二次大本事件によって壊滅、日本社会から消滅したものとばかり思い込んでいた。

そしたら、違った(w)大本教は、二度にわたる弾圧や戦争を乗り越えて不死鳥のように復活し、今日に至るまでちゃんと存続していたのだ。

今日では、教祖から数えて五代目の女性が教主をつとめているのだという。このようにちゃんと男系継承ならぬ女系継承が維持されているところが、面白い。

 

さて、本著の主役は二代目教主・出口すみなのだが、今回の書評ではあまり彼女に触れられなかったので、最後に申し訳程度に彼女の話を(w

すみと親交のあった文化人が、意外なところにいた。

芸術家・北大路魯山人(1883‐1959)である。書道家でもあった彼は、すみの書を絶賛したのだという。曰く、この人は何にでもなれる。いい女将さんになったかも、とも。確かに、写真を見るとすみはなかなか恰幅のいい女性であり、女将の仕事など案外お似合いだったかもしれない。料亭名はそのままズバリ、「大本」でどうだろうw

 

大本教は、教主が代々女性であることが象徴的だが、「女性の力」を強く感じさせる教団である。本著では触れられなかったが、王仁三郎は「変性女子」を名乗ってもいた。

大本教について、もっと多くの本を読んでみたい。

 

大本襲撃―出口すみとその時代 (新潮文庫)

大本襲撃―出口すみとその時代 (新潮文庫)

 

 

この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『邪宗門』上下巻河出書房新社

主人公の左翼青年によって率いられた新興宗教が、戦後の混乱のさなかにあった日本において世直し革命を志すも、最終的には国家権力の弾圧に屈し、崩壊する、という内容の長編小説。

著者は、小説家にして中国文学者でもあった、高橋和巳さん(1931‐1971)

言うまでもなく、作中の新興宗教のモデルは、大本教だ。本作はまた、90年代のオウム真理教事件を予言した、とも評されている。

個人的には、高橋さんの社会的弱者、とりわけ女性に対する温かい眼差しに感動しながら、本作を読んだ。

 

邪宗門 上 (河出文庫)

邪宗門 上 (河出文庫)