Furusawa Keisuke's blog

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書評『イスラーム神学』

先日は、気鋭のイスラーム研究者・松山洋平さんの『イスラーム思想を読みとく』を取り上げた。

本日ご紹介する本も、これまた松山さんによる著作『イスラーム神学』作品社だ。

ただしこちらは、入門書としての性格が強かった『イスラーム思想~』と比べると、より専門的な内容の大著なので、初学者には難しく感じられるかもしれない。その場合、まず『イスラーム思想~』のほうから先に読み、その後に本著……という順番で読むことをおすすめする。このほうが、内容が頭にすんなりと入ることだろう。

 

本著のねらいは、イスラーム教・スンナ派の神学を日本の読書人に紹介することにある――同派は日本では「スンニ派」と呼ばれることが多いが、松山さんは本著にて一貫して「スンナ派」と呼んでいる。『イスラーム思想~』でも同様

松山さんはまず、第一部第一章にて、スンナ派の内部に存在する三つの神学の学派、ないし四つの法学の学派について解説している。『イスラーム思想~』でも同様の記述はあったが、本著のほうがより詳細に書かれている。

スンナ派の神学は、アシュアリー学派とマートゥリィーディー学派、そして「ハディースの徒」の三つの学派に分けられる。このうち、前者二学派は抽象的ないし哲学的な思考を重視し、後者はコーランを文字通りの意味で解釈する、という違いがある。

たとえば、コーランには「神の手」という表現が出てくるが、前者二学派はこれを比喩だと捉える。一方後者は、文字通りアッラーには手がある、と考えるのである――ただし松山さんによれば、「ハディースの徒」はさらに細かいグループに分かれており、そのなかには必ずしも文字通りの意味では解釈しないグループもあるというから、注意が必要である

つづいて法学へ。スンナ派の法学は、以下の四つの学派に分けられる。すなわち、マーリキー学派、シャーフィイー学派ハナフィー学派、そしてハンバリー学派である。

これら法学の学派は、かつては上述の三つの神学の学派とは別個の概念であった。が、今日では前者二学派がアシュアリー派ハナフィー派がマートゥリィーディー学派、そしてハンバリー派が「ハディースの徒」というぐあいに、綺麗な対応関係にあるのだという。

ここで個人的な感想を述べさせてもらうと、僕はアシュアリー学派ないしマートゥリィーディー学派の哲学的な思考のほうが好みだ。それに「ハディースの徒」=ハンバリー派にはどうしても「過激派」というイメージがついてまわる。

 

第二章では、スンナ派において伝統的に異端とされてきた思想が解説される。

ハワーリジュ派、ムルジア派、擬人神観論者、カダル派、そしてシーア派がこれにあたる。

シーア派は大きな宗派なのでニュースでも耳にする機会が多い。イランではこのシーア派が国教となっているほどであるが、本著はスンナ派の立場から書かれているので、大勢力たるシーア派もたんに異端として扱われて終了である(;^_^A

以上、第一、二章が、本著の第一部を構成している。

 

続いて、第三、四章からなる第二部へと移るとしよう。

第三章では、まるまる一章を費やして、中央アジア出身の神学者・ナサフィーが著した『信条』という神学書の日本語訳が掲載されている。僕は浅学なもので、ナサフィーも『信条』も、恥ずかしながら初めて聞く名であったが、イスラーム神学の基本を簡略に解説した著作であるため、スンナ派の神学徒のあいだでは広く読まれているらしい。

続く第四章にて、松山さんはこの『信条』の解説へと入っていく。この解説がまた、長いのなんの(w)。本著の半分くらいの分量があるのでは、と思われる(w)。まさに本著のメインディッシュ、というわけだ。

松山さんは、この長大な第四章を通じて、スンナ派神学の世界を我々日本の読者たちに示してくれるのである。

正直言って、イスラームの基本をかじった程度の僕にはとても手に負えない章ではあるが(w)、それでもスンナ派神学の深遠な世界観を垣間見ることができ、とても神秘的な気分に浸ることができた。

本ブログでは以前、作家・佐藤優さんの『神学の思考』という本を取り上げたことがある。本著第四章とこの『神学の思考』とを、それぞれ比較しつつ読んでみたいな、とふと思った。

 

本著巻末には、「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」なる章が設けられている。

ムスリム・マイノリティ? なんだそりゃ?

松山さんによると、ムスリム・マイノリティとは、非イスラーム圏、たとえばフランスなどの国に住むイスラーム系移民のことを指す言葉だという。彼らの人口は多く、すでに全ムスリム人口の5分の1を占めるというから、その存在を無視することはできない。

彼らがどのように日々の生活を送るべきか、という問題について考えるのが、この章の目的である。言うまでもなく、ここでいう「非イスラーム圏」には、我らが日本も含まれる。

ムスリム・マイノリティは、僕にとっては今まであまり考えたことのないテーマだったので、本章はとても興味深かった。第四章に飽きたという方は、気分転換にこちらを読んでみてくださいw

 

さて、本ブログはこれで、イスラーム研究者・松山洋平さんの著作を二本取り上げた。

彼の単著は、今のところこの二冊のみである。

松山さんにはもっともっと、多くの本を世に出してほしい。そして僕たち日本人に、もっとイスラーム神学の豊饒な世界を見せてほしい。

 

イスラーム神学

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