Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『朝鮮紀行』

朝鮮紀行』なる書物の存在は、以前から知っていた。

19世紀末、イギリスの女性冒険家イザベラ・バードによる、李朝末期の朝鮮を描いた旅行記である。同著のなかで、朝鮮はひたすら不潔で、未開の国として描かれているらしい。

この本のことは、いわゆるネット右翼の人たちがさかんに参照するので、知ってはいた。だが、実際に手に取って読んでみたことはなかった。

それは、やはりよくないことだろう。想像していた内容と、実際に読んだ内容とがまったく違っていたというのは、よく聞く話である。

僕にとっては、日蓮『立正安国論』がまさにそうだった。僕は当初、日蓮は偏狭な人物なのかな、と思っていた。だが『立正安国論』のなかで、彼は自らの出身宗派である総合仏教・天台宗を擁護する立場から、むしろ偏狭な(と彼が考える)専修念仏を批判したのであった。これは、僕にとっては意外な発見だった。

朝鮮紀行』も、もしかしたら同様かもしれない。そう思い、今回本著を手に取って読んでみることにした。

 

やっぱり、予想とはずいぶんと違っていた。

確かにバードは、本著のいたるところで、朝鮮の街の汚さ、人々の怠惰さを批判している。だが彼女は一方で、朝鮮の自然の美しさ、ロシア極東部に移住した朝鮮人の勤勉さを称えてもいるのである。

朝鮮を、単に馬鹿にするだけではなかったのだ。これについて、詳述するとしよう。

 

バードは、明治期の日本から、李朝末期の朝鮮へと入った。まず彼女は、漢城すなわち現在のソウル周辺を旅する。彼女が目にしたのは、美しい自然と、対照的に汚い街並みであった。

彼女はことあるごとに、朝鮮の自然を称揚している。ソウルのなかを流れる漢江を遡る旅に出かけ、その沿岸風景が実に美しいと書き綴っている。

僕も、韓国に行きたくなってきた。いままでもかの国に対し興味はあったのだが、彼女がここまで褒めちぎる韓国の美しい自然を、一度この目で見てみたくなったのだ。

彼女は、朝鮮の気候も褒めている。日本よりも快適だと言う。意外だった。朝鮮半島はとても寒い場所だという印象が僕にはあったからだ。もっとも、寒いのに慣れているイギリス人にとっては朝鮮のほうが快適、ということなのかもしれないけれど。

 

一方で、朝鮮の都市については、上述のとおり彼女はボロクソにけなしている。とにかく、汚い、とのこと(w

彼女は、朝鮮に渡る前は日本に滞在しており、日本の街並みの清潔さをことあるごとに称賛している。先に日本を見てしまったので、なおのこと朝鮮の街が汚く見えたのかもしれない。

バードは、朝鮮の人々に対しても、実に手厳しい。彼女の目には、朝鮮人は怠惰で無気力に見えた。彼女はまた、朝鮮人女性が低い社会的地位に置かれ、外出する自由すらないことを詳しく記述している。彼女自身が女性であるから、女性の置かれている地位には敏感だったのだろう。

 

さて、旅行好きのバードが旅したのは、なにも朝鮮だけではなかった。彼女はさらに、満州や、ロシアのウラジオストクにまで足をのばしたのである。なんと活動的な女性なのだろう!

ウラジオストクがアメリカの西部に似ている、という彼女の指摘は、意外だけれども納得した。なるほど、たしかにアジアではなく、欧米なのだが、かといって西欧とは違って、歴史が蓄積されているわけではない。この意味で――少なくとも当時の――ロシア極東部は、西欧よりもむしろアメリカ西部と似ていたのだ。なるほど、その発想はなかった(;^_^A

さて、ロシア極東部で彼女が目撃したのは、朝鮮から移住してきた朝鮮人の農民たちであった。驚くべきことに、彼らは朝鮮の内地に住む農民たちとは、メンタリティーがまったく違っていた。怠惰で卑屈で猜疑心が強い朝鮮の農民たちと違って、ロシアで働く彼らは実に勤勉で自立心に富んでいたのだ。

かくして彼女は確信する。朝鮮人という民族が本質的に怠惰なわけではないということを。彼らが怠惰なのは、朝鮮の社会のシステムが悪いからである。彼らを取り巻くシステムさえ変われば、彼らは劇的に生まれ変われるはずなのだ。現にロシアで働く農民たちがそうであるように。

バードは、決して朝鮮人を蔑視していたのではなかったのである。これを知ることができたのが、今回の読書の一番の収穫であった。

 

 

……それにしても、イザベラ・バードって、いったい何者?

19世紀末という時代にイギリス人女性として極東を旅したというだけでもすごいのに、本著を読むと、彼女の興味の対象が実に多岐にわたっていることに驚かされる。なにせこの人、旅をしながら常に気温や気圧まで測定しているし、その関心の対象はさらに土壌や宗教、政局、さらには国際情勢にまでわたっているのだ!

本著に載っている彼女のプロフィールを見てみると、1831年生、と書かれている。

え!? ということは、朝鮮を旅した1890年代の時点で、彼女はすでに60代だったことになる。

なんと! あまりに精力的に動き回るものだから、僕はてっきりまだ若い30、40代くらいの女性をイメージしていたのだが、意外や意外、おばあさんであったのだ。

うーむ、イザベラ・バード、ますます何者??(www

 

朝鮮紀行〜英国婦人の見た李朝末期 (講談社学術文庫)

朝鮮紀行〜英国婦人の見た李朝末期 (講談社学術文庫)