Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『論文作法』

実のところ、僕は自分の書いた卒業論文の内容を覚えていない。

「え? ご冗談でしょう?(w

と人からはよく笑われるのだが、本当の話だ。

これまでにも書いてきたとおり、僕は元来文系科目のほうが得意だったのだが、高校2年のときに就職に有利だというので理系コースを勧められ、そのまま大学の理系の学部へと進学したのである。だが実のところ、理系の学問なんてつまらなくてつまらなくてしょうがなかった。大学4年のときに研究室に配属されたがそこでの生活が耐えられず、一時期「不登校」状態に陥った。それでもまぁなんとか、周囲の助力もあって大学へと戻り、論文“のようなもの”を書き上げて卒業することができた。

人間の脳というのは面白いもので、不必要だと判断した情報、あるいはつらい思い出などは、なるべく早く忘れてしまうように出来ているのだ。だから今では、自分が卒業論文で何を書いたのかすら覚えていない。大学四年間で学んだ教科も、第二外国語のドイツ語をのぞいて何もかも忘れ果ててしまったし、今日では指導教官の顔すら満足に思い出せないほどだ。

 

こんなありさまだから、僕はちゃんとした論文の書きかたというものを知らない。それが、劣等感にもなっていた。

そんなわけで今回読んだ本が、『論文作法 調査・研究・執筆の技術と手順』(而立書房)。タイトルのとおり、(文系の)論文の書きかたについて詳しく解説した本だ。

著者は、イタリアの哲学者ウンベルト・エーコ(1932‐2016)。本ブログでは以前、彼の講演録『永遠のファシズム』を取り上げたことがある。

「『論文作法』? なにやら堅苦しい題名の本ですね。面白いんですか?」

などと訊いてはいけない。ここが我らがエーコの凄いところで、お堅いテーマのはずなのに、実にスラスラと楽しく読めてしまうのだ。それでもちゃんと、勉強になる。エーコ先生、一生ついていきますっ!(w

 

エーコ先生――以降、彼に敬意を表して「エーコ先生」と呼ぶことにしようw――はまず、論文のテーマの選び方から丁寧に解説してくれる。

ここでの主張の力点は、とにかくテーマを絞ることである。漠然と「日本の戦前の右翼について研究したいで~すw」では駄目なのだ。戦前の右翼のなかでも、たとえば北一輝ひとりに絞らなければならないし、さらに彼の業績のなかでも、たとえば中国に渡っていた当時の彼の足跡、という具合に絞らなければならない。

つづいて、資料調査の仕方について。

エーコ先生は実に面倒見がよく、図書館の活用の仕方までご丁寧に解説してくれるのだからありがたい。そのうえ引用の仕方まで説明してくれる。たとえば参考文献のタイトルの論文上での書き方だとか、その発行地、出版社、さらには第何版かまで書け、と実に事細かに指示してくる。

次に、論文を執筆するさいに必要になるメモの書き方。ねぇ、エーコ先生はこんなことまで解説してくれるんですよ、すごいでしょう(w

エーコ先生は、まずカードを作り、そのカードのなかに、本のタイトル、作者名、引用したい箇所、それについての自分の感想などを書きこむ方法を提唱している。なるほど、これは、僕がブログを書く際にも参考になるやり方かもしれない。……そう、なにも本著が役に立つのは論文を執筆するときだけとは限らないのだ。

エーコ先生は最後に、剽窃、つまりパクリだと非難されないための敷衍説明の仕方、註のつけ方、さらにはキリル文字ギリシャ文字のローマ字転写の方法に至るまで、事細かに解説してくれている。

 

どうだろう、皆さん。ここまで読んで、

「うへぇ~! 論文を書くのって、こんなにもメンドクサイのか~」

と面食らったのではあるまいか(w)。もちろんエーコ先生も、そうした反応は先刻ご承知だろう。だから彼は、こう書いている。

≪重要なことは、物事を楽しみながらやるということなのだ。(中略)本当に論文に打ち込む決心をしたのであれば、論文というものを一種のゲーム、賭け、宝探しとして体験できることにきっと気づくであろう。≫(256頁、太字部分は原文では傍点強調)

あぁ、そうだ。この箇所を読んで思い出した。

僕の知人で文系の大学院の博士課程に在籍している男がいたのだが、彼もことあるごとに「研究は娯楽」と言っていたっけ。

論文の執筆は、いやこれは論文に限らずブログ記事の執筆にだって言えることなのだが、一番大事なのは、楽しみながらやること、これに尽きるのだ。

 

論文作法─調査・研究・執筆の技術と手順─ (教養諸学シリーズ)

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この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『学問の技法』筑摩書房

こちらは日本の社会学者・橋本努さんによる、文系学問の指南書。とても勉強になります。もっと若い頃に、この本と出会いたかった……

 

学問の技法 (ちくま新書)

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