Furusawa Keisuke's blog

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書評『経済政策で人は死ぬか?』

Q.経済政策で人は死ぬか?

 

本日ご紹介する本は、上の問いがまさにそのままタイトルになっている(w)『経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策』草思社である。

著者は、デヴィッド・スタックラーとサンジェイ・バスという、ふたりのアメリカの公衆衛生学者。

 

本著は、世界各国が実際に行った様々な経済政策を例に挙げながら、この問いに答えを出そうとする。

本著で取り上げられる事例は、大恐慌期のアメリカ、ソ連崩壊直後のロシア、アジア通貨危機直後の東南アジア、金融危機直後のアイスランド、等々。大恐慌期のアメリカを除けば、みな過去30年内に起こった出来事だ。その大恐慌期のアメリカにしても、2008年のリーマンショックとの絡みで語られるのだから、本著に登場する事例はみな現代の出来事と言っていい。

 

個人的に最も興味深かったのは、ロシアの事例だ。

ソ連崩壊直後、ロシアは未曾有の社会的大混乱に直面、多くの人が幸福な暮らしを失う羽目になった――このあたりの経緯は、佐藤優さんの『甦るロシア帝国』に詳しい

いったい、どうしてか。

我々は「社会主義が崩壊したから」とつい考えてしまう。それならば、ロシアはいっそ社会主義ソ連のままのほうが良かったのだろうか。

そうではない、と著者たちは言う。彼らは、ロシアを襲った悲劇は、社会主義から“急激に”資本主義に移行しようとした点にこそある、と言うのである。これに対し、緩やかに移行しようとした旧共産国は、とくに大きな社会的混乱もなく、スムーズに経済成長を成し遂げることができた。このことを、本著はデータを豊富に挙げながら説明していくのである。

つまり、資本主義への移行それ自体が問題なのではなく、その以降の際に採られた経済政策が間違っていたから社会的悲劇が起こったのである。

これは、日本におけるバブル崩壊の問題と似ている。多くの日本人が、バブル崩壊のせいで日本は長い経済停滞に突入した、と考えている。

だが、これは間違いだ。

リフレ派の経済学者たちが指摘しているとおり、バブル崩壊そのものが問題なのではなく、バブル崩壊後に採られた経済政策が誤ったものだったから、日本は経済停滞に突入したのである。

 

ロシアの急激な移行は、当時の多くの経済学者たちによって支持されたという。本著には、この時支持した学者たちの実名も載っている。そのなかには「あれは間違いだった」と率直に認めている人物もいるという。だが、現に多くの人が死んだというのに「間違ってました、ごめんなさい」では済まされないだろう。経済学者たちの無責任ぶりが際立つ。

 

ソ連崩壊から四半世紀以上もの歳月が経過したロシアだが、当時の混乱はいまだに大きく暗い影をこの国に落としていることが、本著からはうかがえる。

同国が混乱のさなかにあった1990年代、現役世代の多くの男性がアルコール中毒――さすがウォッカ大国!――で死亡してしまい、これら現役世代の欠落が今もロシア社会の発展を妨げているというのだ。

これは、日本とて同じことである。日本も、バブル崩壊の誤った経済政策のせいで経済停滞に陥り、結果、「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれる就職氷河期世代が発生した。

彼らは、安定した職にありつけないため、結婚もできない。ネットスラングでいうところの「キモくて金のないオッサン」になるしかない。

彼らの多くが正社員になれなかったことで、近い将来この国の生活保護費が急増する一方、税収は減るなど、深刻な社会問題が発生するだろうと予測されている。

誤った経済政策は、このように後々まで尾を引くのだ。まったく、経済学者連中の罪は重大、というほかあるまい。

 

本著にはこの他にも、興味深い話がたくさんある。

たとえば大恐慌期のアメリカに関する章では、ニューディール政策が、平均寿命を上げる、自殺率を下げるなどのかたちで、いかに人々の命を救ったかが述べられている。

ニューディール政策は、実は州によって実施の程度にばらつきがあり、あまり実施されなかった保守的な州では、こうした効果は乏しかった。一方、積極的だったリベラルな州では、効果は目に見えて表れた。特に目覚ましかったのが、先日取り上げた“アメリカン・ファシスト”、ヒューイ・ロング治める、ルイジアナ州である。

『アメリカン・ファシズム』では、言うなればダークヒーロー的な描かれ方だったロング知事だが、本著では意外や意外、彼の経済政策「富の共有運動」("Share Our Wealth")がかなり好意的に紹介されている。

 

積極財政と緊縮財政の違いが明暗を分けた、という話も実に興味深い。

例えば、アイスランド。同国は2008年に金融危機に陥ったが、政府が積極財政に打って出たおかげで、その経済は復活した。一方、同じく金融危機に直面したギリシャは、政府が緊縮財政を続けたせいで、破滅的な危機に陥ったのである。

同じことがアングロサクソン諸国でも起こった。アメリカはオバマ政権下で積極財政を行い、経済を回復させたが、イギリスのキャメロン政権は対照的に緊縮財政をやってしまい、そのせいでイギリス経済は悪化したという。

本著はこのように、積極財政が国民を救い、緊縮財政が国民を危機に陥れるという事例を、これでもか、これでもかと、くどいくらいに(w)取り上げている。

 

というわけで、もう答えを出していいだろう。

A.経済政策(次第)で人は死にます。

 

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

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