Furusawa Keisuke's blog

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書評『もうダマされないための経済学講義』

今年3月20日日本銀行に新しい副総裁が就任した。

経済学者の若田部昌澄さんだ。

若田部さんは、緩やかなインフレによってデフレからの脱却を目指す、いわゆる「リフレ派」の論客のひとりとして知られ、これまでに複数の単著、共著を世に出している。本ブログでも以前、彼の著作『経済学者たちの闘い 脱デフレをめぐる論争の歴史』を取り上げたことがある。

今回ご紹介するのは、そんな若田部さんによる『もうダマされないための経済学講義』(光文社)である。

 

本著では、「インセンティブ」「トレード・オフ」「マネー」など、経済学における重要な概念が列挙され、それぞれ一章分を割いて解説されている。

このうち、とりわけ重点的に解説されるのが、マネーだ。

どうしてか。

それは、マネーによって引き起こされる現象のひとつであるデフレこそ、今日の日本社会を長期にわたって苦しめている一番の要因であるからだ。

若田部さんは、実に本著の後半部分まるまる全部を費やして、近現代史におけるデフレやその対義語であるインフレについて解説していく。

 

本著を読んでいると、「えっ、そうだったの!?」と驚くことばかりだ。

たとえば、「日本はもう成長しない(からリフレ政策なんて無駄だ)」と主張する論者は、「江戸時代はゼロ成長だったけどちゃんとうまくいってたじゃないか」というので江戸時代を持ちあげることが多い。ところが若田部さんは本著にて、江戸時代は実は経済成長していたと指摘しているのである。

このほかにも、本著は驚きの連続だ。「世界恐慌金本位制のせいで引き起こされた」「アメリカは、本来ならば第二次大戦による特需に頼らずとも恐慌から脱却できたのだが、金融政策でつまづいたせいで脱却が遅れた」……等々。

いったい、これまで我々が習ってきた歴史とは、何だったのだろう。

若田部さんに限らず、リフレ派の論客たちの本を読んでいると、彼らの語る経済史が従来我々が習ってきたそれとはだいぶ異なっていることに驚かされる。

まるで、今までの自分が解体されていくかのようだ。

これは、読書の醍醐味のひとつ、と言っていいだろう。読書は、必ずしも自分を成長させてくれるとは限らない。読書はときとして、自分を木っ端みじんに破壊することすらあるのだ。

もっとも、読書人にとってはそれこそがむしろ無上の快感であるのだが。

 

……ここから先はいささか下品な話になってしまうが、「あぁ、経済学を勉強しといてよかった~」と思える理由のひとつに、経済オンチの人文系インテリをマウンティング(上から目線で見下すこと)できるというのがある。

本当に、経済学を勉強すると、いかに日本の人文系インテリが経済オンチかというのがよく分かってしまうのだ。

例に挙げて申し訳ないが、先日取り上げた『愛国と信仰の構造』島薗進さんにしても、「バブルの崩壊によって日本経済は停滞し~」などと当たり前のように書いてしまう。だが経済学を勉強すれば、バブル崩壊そのものが停滞の原因なのではなく、バブル崩壊後に政府が適切な金融政策を実施しなかったことこそが真の原因だということが分かるのである――現に、日本とほぼ同時期にバブル崩壊を経験した北欧諸国は、その後わずか数年で立ち直っている

人文系インテリをマウンティングするのに、経済学は最高のツールだ。……な~んて言ったらさすがに怒られるかw(;^_^A

 

※もっともこれは、当の人文系インテリたちの目を経済学に向けさせるには、なかなか優れた戦略かもしれない。というのも、人文系インテリというのは――僕も含めて――他の人文系インテリをマウンティングするのが三度の飯よりも大好きな人種だからだ。ネット上にあまた存在する若き人文系インテリたちに対しては、したがって「経済学を勉強すれば社会のことが分かるよ」と言うよりも「経済学を勉強すれば内○樹をマウンティングできるよ」と言ったほうがはるかに効率的であろう。

 

それにしても、本来地頭がいいはずの日本の人文系インテリは、どうしてこうなってしまったのだろう。

若田部さんは僕と違って優しい方なので本著のなかで断言こそしていないものの、マルクス経済学マル経が原因ではないか、と匂わせている。

この国の大学の経済学部では、長い間マル経が教えられ、近代経済学(近経)はなかなか教えられてこなかった。そのせいで、近経に基づいた適切な経済政策を打てる人材が、あまり育たなかったというわけだ。

なるほどそれなら、かつてマル経の洗礼を受けた団塊世代が社会の中枢を担うようになってからこの国が傾き出したのも頷ける。

だがソ連が崩壊してもはや四半世紀が経ち、マル経も前世紀の遺物となった。ならば、これからの若い世代には期待してよさそうだ。

 

上述のとおり、本著の著者・若田部昌澄さんは、この春から日銀の副総裁となった。リフレ派である彼には、当然アベノミクスをさらに前進させることが望まれている。

今後の彼の手腕に期待したい。

 

もうダマされないための経済学講義 (光文社新書)

もうダマされないための経済学講義 (光文社新書)