Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『韓国の軍隊』

わが郷土・静岡県沼津市は、現在、アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の影響で、全国からアニメファンが大量に移住しつつある。驚くべきことには、なんと韓国からも漫画家志望の青年が沼津に移住してきたのだという。

その話を聞いた僕は驚くと同時に、「徴兵はどうなのだろう? もう済ませてから来たのかな」と気になった。

 

韓国の若者たちが直視しなければならない大きな現実が、徴兵制である。日本では戦後になってから徴兵制は廃止されたため、なかなかピンとこないのであるが。

本日ご紹介する『韓国の軍隊 徴兵制は社会に何をもたらしているか』中央公論新社は、そんな韓国の徴兵制について我々に教えてくれる本である。著者は、政治学者の尹載善さん。

 

韓国における徴兵期間は、2年間である。

僕は当初誤解していたのだが、韓国の若者は2年間ひたすら厳しい訓練に耐えている、というのでもないらしい。彼らはまず、最初の5週間、みっちり新兵訓練を受ける。その新兵訓練がキツイのである。厳しいしごき、体を動かす教練のほか、催涙ガスに耐える訓練まで行われるというのだから、その厳しさは徹底している。

韓国の若者たちは、軍隊に入る当初はなにやら人生の終わりのような感じさえするという。彼らの絶望は、察するに余りある。

この5週間の地獄の新兵訓練が終わって、ようやく彼らは軍隊へと配備される。軍隊生活のキツさは、配備される場所によって違うらしい。北朝鮮との前線に近いほど、当然ながら任務は緊張を帯びるようだ。

軍隊での暮らしは、最初の二等兵時代には覚えることも多く大変なのだそうだが、それでも次第に慣れてくるという――つくづく、慣れとは偉大なものだ。階級も、時間がたつにつれて上がっていく。最終的には、兵長にまで昇進することになる。ここまでのぼりつめると、だいぶラクになるらしい。軍隊は超体育会系の世界であるため、いったん上にのぼりつめてしまえば、もはや歯向かう者など誰もいないというわけだ。

 

徴兵制は、韓国社会ではどうやら、一人前になるための一種のイニシエーション通過儀礼と見なされているらしい。徴兵を終えて、彼らは皆、肉体的にも精神的にも成長するのだ。

……と言っても、もちろん、必ずしもいいことばかりというわけではない。こうして軍隊を出た男たちが社会を支えていくので、社会全体が暴力的になる、などの弊害も見られるというのだ。

著者の尹さんは、そんな徴兵制の明暗をともに本著のなかで描き出している。

 

さて、皆さん、どうだろう。ここまでの話を聞いて、どこか遠い国の話だと感じただろうか。

確かに、徴兵制は我々日本人の多くにとっては遠い世界のように感じられるだろうが、実は、その現代日本においても徴兵制に近い環境があるのである。

禅寺だ。

禅宗のお寺に生まれた息子さんは、将来住職になるべく、たいてい修行のため1年間、あるいはそれ以上、禅寺にて修行することになる。これなどは「現代日本版徴兵制」と言ってもよいかもしれない。

禅寺も、韓国の軍隊と同様、生活規則が事細かに律せられており、上下関係もきわめて厳しいが、それゆえに時間がたってランクが上がると、慣れも手伝って、むしろ生活はラクになるという――曹洞宗の僧侶・南直哉(みなみ・じきさい)さんは、永平寺に実に19年もの長きにわたって修行していたが、ご本人に言わせれば、そこでの生活はむしろラクだったという。徴兵と禅寺での修行は、一人前になるためのイニシエーションとして機能している、という点でもまた共通している。

以前、僕が座禅の体験会に参加したときに垣間見た若き修行僧たちは、皆一様に、凛々しかった。徴兵や修行は、あるいは人間にとって必要なのかもしれない。……正直、僕はご免こうむりたいけど(;^_^A

 

韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)

韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)