Furusawa Keisuke's blog

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書評『経済学的思考のすすめ』

本ブログではこれまで、飯田泰之さん、若田部昌澄さんなど、「リフレ派」と呼ばれるグループの経済学者たちの著作を多く取り上げてきた。

リフレ派とは、金融政策によって人為的に引き起こされる緩やかなインフレ「リフレーション(リフレ)によって現下のデフレ不況からの脱却を目指すグループのことである。

本日取り上げるのは、そんなリフレ派のひとり、経済学者・岩田規久男さんの著作『経済学的思考のすすめ』筑摩書房である。1942年生まれの岩田さんは、リフレ派のなかではさながら「長老」的なポジションに位置づけられている。

 

本著において岩田さんが採った手法は、正統な経済学に基づかない経済解説本、すなわち「トンデモ本」をダメ出しすることによって、逆説的に「本物の経済学とは何なのか」を読者に教える、というやり方である。

これは、賢明な策である。本ブログでは前々から言ってきたことだが、何かを説明する場合に、良い見本を示すよりもむしろ悪い見本を提示したほうが、教育の観点からは効率が良いのである。

たとえば、映画。皆さん、映画の作り方を知るためには「名画」と呼ばれる優れた作品を見るのが手っ取り早いと思うだろう? 

たしかに、名画を鑑賞するのも大切ではある。だが僕はむしろ「あえてB級映画を見る」ほうが映画の作り方を知るには良いと思っているのだ。

ただし、ただ漫然と見るだけでは駄目。B級映画を見て、その映画の具体的にどの部分が駄目なのかを逐一指摘できるようにするのである。そうすれば、B級映画の反対、すなわち名画とはどのようにつくられた映画なのかが、理解できるようになるだろう。

話を本著に戻す。「トンデモ本」の典型として岩田さんが本著で挙げているのが、ニュースキャスター・辛坊治郎さんとその実兄・辛坊正記さんによる共著『日本経済の真実―ある日、この国は破産します』である。辛坊さんは、関西の人気番組『そこまで言って委員会』の司会者として知られる。

岩田さんは、あえて辛坊さんらのトンデモ本(=B級映画)を読者に提示し、その本の具体的にどの点が駄目なのかを逐一指摘することによって、逆説的に読者に「本物の経済学」(=名画)の何たるかを教えてくれているのである。

 

本物の経済学とトンデモ本の違いは、さていったい何だろう。岩田さんによれば、それは前者が演繹法に依るのに対し後者は帰納法に依る、という点である。

帰納法は、「これまでの経験から、たぶんこうだと言えるだろう」と推定する。だがそれはあくまで「推定」だ。間違っている可能性もある。また、どうしてそうなるのかも帰納法は説明できない。

たとえば、日常生活では重いものほど早く落ち、軽いものほど遅く落ちるように見える。「だから重いものほど早く落ちるんだ!」とつい断定したくなるが――実際、古代ギリシャではそう思われていた――これこそ、帰納法の誤りなのである。周知のとおり、実際には重さに関係なく物体は同じ速さで落下するからだ。

また、帰納法ではそもそも「どうして物が落ちるのか」も説明できない。

これに対し、経済学は演繹法を駆使する。演繹法では、まず仮定を立て、それから合理的な推論――これには主として数学が駆使される――を経て、結論に至る。仮定が正しく、また結論に至るまでの計算に謝りがなければ、答えはつねに正しい。これが、演繹法である。

 

にもかかわらず、巷にトンデモ本があまた溢れているのは、どうしてだろう。それは、トンデモ本のほうが分かりやすいからだ。

岩田さんは、天動説と地動説を例に挙げている。「太陽はいつも東からのぼる」という経験から帰納法によって導き出された天動説のほうが、一般人の感覚からすれば分かりやすい。だから人は天動説=トンデモ本のほうになびいてしまうというわけだ。

しかしながら、それではいつまでたっても我々は中世の暁闇に閉じ込められたままである。

我々は、たとえ直観に反し、理解しづらくとも、地動説=経済学を学ばなければならないのだ。

 

さて、本著を読んで僕が強く感じたのは、経済学は他の社会科学とはかなり異質な学問だということである。

経済学は、むしろ物理学など自然科学の方に近いと感じられる。岩田さんも、だからこそ本著のなかで、上述の自由落下や地動説など、自然科学の喩えをふんだんに用いているのだろう。

思えば、先日取り上げた「科学の人」、西部邁さんもまた、その学問的出自は経済学であった。

 

皆さんは、もしかしたら「うーん、話を聞くと、なんだか難しそうな本だなぁ」と思われるかもしれない。

確かに、本著の内容は高度だ。一度読んだだけでは分かりづらいかもしれない。だが、岩田さんの筆致はとても平易なものだ。何度か繰り返し読んでいけば、彼の言わんとしていることが、だいぶよく理解できるはずである。

僕はこれまで、経済学の入門書として、飯田泰之さん、若田部昌澄さんらの著作を勧めてきた。これからは、岩田さんの本も人に勧めることにしよう。

 

経済学的思考のすすめ (筑摩選書)

経済学的思考のすすめ (筑摩選書)