Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『経済論戦の読み方』

大の経済オンチだった僕が、はじめて「リフレ派」なるグループの存在を知ったのは、経済学者・田中秀臣さんとの出会いからだった。

それからは、田中さんを経由するかたちで、飯田泰之さん、若田部昌澄さんといった、リフレ派の他の論客たちも知り、それまでさっぱり分からなかった経済学のことが、おぼろげながら次第にわかるようになってきたのだ。

そう、すべては田中さんからだった。そういう意味で、僕は田中さんにとても感謝している。

本日ご紹介する本は、その田中さんの著作『経済論戦の読み方』講談社である。

 

本著が書かれたのは、小泉政権下の2004年。当時は「構造改革」が世のスローガンとなっていた。

この本のテーマも、まさに構造改革だ。田中さんは本著において、構造改革主義を仮借なく批判しているのである。

「へぇー、田中さん、構造改革を批判してたんだ」とくれぐれも短絡しないでほしい。

彼は構造改革ではなく構造改革主義を批判したのである。

……と言っても、おそらく皆さん「はぁ???」という感じだろう(w

というわけで、今日はその構造改革“主義”のお話。

 

そもそも、構造改革とは何ぞや。

それは、社会の構造を変革して資源の配分をより効率の良いものに改めることである。

そういう意味での構造改革なら、田中さんは決して否定しない。むしろ、やったほうがいいとすら言っている。

だが、それはあくまで、デフレから脱し、経済状況が良くなってから、という条件つきなのである。

これに対して、構造改革“主義”とは何だろう。

それは、現在の日本の不景気の原因は日本社会の構造にこそあり、その構造を抜本的に変革することによってはじめて日本は不況から脱する、という考えのことである。

構造改革主義者たちは、好景気を望まない。むしろ好景気になると良くないとすら考える。

なぜか。好景気になってしまうと、本来ならば淘汰されるべき生産性の低い企業がそのまま温存され、構造改革の妨げとなるからだ。こうしたダメな企業は、むしろ不況によって淘汰されたほうがいいのだ。不況上等! というのが、この構造改革主義なのである。

田中さんは、こうした構造改革主義を強く批判している。

彼は、本著のなかで「政策割り当て」という言葉をたびたび使っている。これは、どういう意味だろう。

日本をデフレから脱却させるためには、人為的な緩やかなインフレ、すなわち「リフレーション(リフレ)が必要だ。一方、日本の資源の配分をより効率的にするためには、構造改革が必要だ。これらは本来、まったく別の事柄なのである。

これらふたつの事柄をごちゃまぜにして、将来の景気回復のために今構造改革をしろ、そのために今の好景気は犠牲にしてもかまわない、という構造改革主義の発想は、間違っている。

景気を良くするために、リフレを。それとは別に、日本社会の改良のために、構造改革を。

こういうふうに、ふたつの問題を分けて考えるのが、政策割り当てなのである。

 

さて、話は変わるが、経済学の本質って、いったい何だろうか。

つい数年前までズブのド素人だった僕がこんな大それたことを言うのもナンだがw(;^ω^)、僕に言わせると、それはみんなが幸せになることを目指す学問である。

これまで、デフレ化の日本ではゼロサムゲーム、つまり誰かから富を分捕るという発想が支配的だった。そこでは、誰かが得をすればそのぶん、誰かが損をすることになる。

あるいは、誰の得にもならない、という悲惨な例も多い。「公務員ばっか恵まれててズルい!」と大衆が文句を言えば、政府は公務員の給与を容赦なくカットする。その結果、公務員は当然貧乏になる。それで大衆が代わりに豊かになるのかと言うと、そういうわけでもない。みんなが貧乏になる、という結果に終わる。

もう、こういう悲しい話は終わりにしないか。大事なのは、みんなが幸せになることではないのか。

本著のなかで、田中さんはこう書いている。

≪社会の厚生のために既得権益集団の利益を減らすことになる改善は、選択行動における最適状態を提示したイタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートの名をとって、「非パレート改善」という。これと反対に、既得権に触れないで社会全体の厚生が増加することを、「パレート改善」という。

(中略)

漸進的構造改革は、社会の成員の状態が誰ひとり悪化せずに社会が改善する可能性があるという意味で、パレート改善的な政策手法である。≫(104‐105頁、太字部分は原文ママ

デフレ時代では、誰もが「既得権益を打破しろ!」と、そればかり言う。だが、それは不毛ではないのか。既得権益で甘い蜜を吸っている奴がいる。それでもいいではないか(w)。彼らがうらやましいというのなら、彼らと同じくらい、我々も甘い蜜を吸えばいい。それだけのことではないか。

もう、誰かの足を引っ張って不幸にするのは、いい加減やめにしよう。みんなが幸せになろうよ

……こういう発想が、僕が経済学を勉強するうえでの、インセンティブになっている。

 

余談ながら。本著では、章の合間合間に「ブックレビュー・コラム」と題したコラムがある。ここでは先日の岩田さんの本と同じく、デタラメな経済学的知見に基づいた「トンデモ本」が俎上に載せられ、容赦なく批判されている。

これは、一読の価値ありだ。ここに批判的に紹介されているトンデモ本の著者たちの名を、皆さんはよく覚えておくと良い。

 

経済論戦の読み方 (講談社現代新書)

経済論戦の読み方 (講談社現代新書)

 

 

この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『不謹慎な経済学』講談社

こちらも、経済学者・田中秀臣さんによる著作。

複数の独立した章から成り、とりわけ「安定した経済が排外的ナショナリズムを抑える」という話や、二・二六事件と経済学の関係についての話などが興味深い。

「オーラルセックスを経済学の観点から考察する」など、一風変わった章もあります(w

 

不謹慎な経済学 (講談社BIZ)

不謹慎な経済学 (講談社BIZ)