Furusawa Keisuke's blog

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書評『ヘリコプターマネー』

皆さんは子供の頃、どうしてもっとお金を刷らないのかと不思議に思ったことはないだろうか。

もっとお金をいっぱい刷れば、貧乏な人たちは豊かになれるし、豊かな人たちはもっと豊かになれる。みんな幸せになれるはずなのに……。

大人になって、私たちはインフレーションなる経済現象があることを知る。お金を闇雲に刷っていけば、お金の価値がどんどん下がり、ついには1920年代のドイツのように、パンひとつ買うのにさえ大量の札束が必要な世の中になってしまう。私たちは、だから「お金をどんどん刷る」という発想が子供じみた空想に過ぎなかったと反省するのである。

だが、本当にそうなのか? 案外、お金をじゃんじゃん刷れば人々は幸せになれるんじゃないか?

……という話が、本日取り上げる『ヘリコプターマネー』日本経済新聞出版社である。

著者は、経済学者の井上智洋さん。1975年生まれというから、本ブログでたびたび著作を取り上げている飯田泰之さんと同世代ということになる。また、飯田さん同様、井上さんもリフレ派の論客のひとりである。

 

本著はまず、タイトルともなっている「ヘリコプターマネー」とはそもそも何なのか、というところから説明を始めている。

ハリウッド映画などでよく、金銭を強奪したあげくヘリコプターで脱走しようとする悪党と主人公とが機内にて乱闘、揉み合いとなった結果、悪党のアタッシェケースが開いてしまい、中から紙幣がバァーッとヘリコプター上から地上にばら撒かれる、というシーンがあるだろう。ようするに、あのイメージなのである。

つまり、まるでヘリコプターに乗ったアーノルド・シュワルツェネッガー(CV:玄田哲章が「さぁ、みんな! 俺からのプレゼントだぜ。ありがたくいただきな! HAHAHAHAHAHA!!」と言ってヘリコプター上から現金をばら撒くかのようなイメージで、政府がじゃんじゃんお金を刷り、市場に放出する、というアイデアなのである。

ヘリコプターマネーは、金融政策のひとつと見なされているようだ――財政政策としての側面もあるようだが。一口に金融政策といっても、金利を操作するなどいくつかのパターンがあるが、ヘリコプターマネーもそのうちのひとつなのである。

井上さんは本著にて、このヘリコプターマネーの解説のほか、銀行による信用創造についての説明や――これが終章で重要になる――日本のいわゆる「失われた20年」についても解説している。

 

さて、本著が俄然面白くなってくるのが、その終章たる第5章である。

井上さんはここで、ある大胆な提言に踏み切る。

彼は、今後、AI人工知能の進歩によって多くの人々が雇用を失うだろうことを見据え、ヘリコプターマネーによる貨幣発行益(※)を財源とするBIベーシック・インカムを導入すべし、と訴えるのだ。

※紙幣を刷ることで得られる利益。なにせ1万円札はもともとは20円程度の紙きれに過ぎないですからね。

井上さんはさらに大胆にも、銀行による信用創造を廃止せよ、とまで言っている。

経済にあまり明るくない方にとっては「信用創造? 何ソレ、おいしいの?」という話かもしれない。ここで、信用創造について簡単に解説するとしよう。

今ここに、フルサワ銀行なる銀行が誕生したとしよう。誕生したばかりなので金庫は空だが、Aさんという預金者がやってきて、100万円を預金してくれた(ごっつぁんです!)。次にBさんなる人物がやってきて、こちらは100万円貸してください、と言う。フルサワ銀行は「いいですよ~」とBさんの口座に100万円を振り込む(実際に現金を手渡しするわけではないところがポイント)

ここまではいいだろう。問題はその次。今度はCさんなる人物がやってきて、これまた100万円貸してください、と言う。さて、フルサワ銀行はCさんに100万円を貸すことができるだろうか?

普通に考えれば、(フルサワ銀行の側から見れば)まず100万円を貸してもらって、そのあと今度は100万円を貸してしまったのだから、もう貸せない、と思ってしまうだろう。ところが。

なんと、フルサワ銀行はCさんに、Bさんにしたのと同じやり方で100万円を貸せるのである。それだけではない。その後にDさんなる人物が来てやはり同様に100万円貸してください、と言ってきても、フルサワ銀行はこれまた同様にDさんに100万円を貸せるのである。

どうして? これが、信用創造というものなのだ。銀行は、無からお金をつくることができるのである。

「えーっ、そんなのって、アリ!?」

と皆さん驚かれるかもしれない。だがそれをいうならそもそも紙のお札だって、本当はたかだか製造コスト数十円の紙きれなのに、中央銀行が「ええいっ、これは1万円の価値があるのっ!」と宣言するから、そこに1万円の価値が生まれるのである。現代において、貨幣は無から生み出されるのだ。

 

話を戻して、さて、この信用創造のいったい何が駄目だというのか。井上さんの説明に耳を傾けてみよう。

≪例えば、今、日本政府には1000兆円の借金があると言われている。そのうち60%くらいが銀行から借りたお金であり、信用創造によって作り上げられたお金である。もし、政府が自ら紙幣を発行するなどしてまかなえば、その分の借金は生じなかったはずである。

 無からお金を作り出すという意味では、政府が紙幣を発行しようが銀行が信用創造しようが同じである。それなのに、政府が自らお金を作り出す権限を放棄しているがために、わざわざ銀行から借金をしなければならず、これまで膨大な利子を支払ってきたのである。≫(167頁)

このようなバカげた仕組みはもうやめよう、というのが井上さんの主張なのだ。

井上さんは、銀行による信用創造を廃止し、政府が銀行からお金を借りるのではなく、政府自身が直接お金を刷り、その結果得られる貨幣発行益をBIというかたちで国民に還元しようと言っているのである。

これが大胆な提案であることは、井上さん自身、よく分かっているはずだ。

だが、大胆な提案を恐れてはならない。大胆な提案こそが、新たな時代を切り開くのである。

江戸時代、安藤昌益という学者がいた。彼は「人間みな平等」と唱えたせいで周囲からは狂人扱いされた。だがどうだろう。現代ではもはや、彼のアイデアは常識にすぎない。大胆な提案は、このように時代が下れば常識として社会に定着するのである。

 

本著における井上さんの語り口は、とても平易だ。だが、先日取り上げた岩田規久男さんの著作もそうだったが、「平易であること」と「内容が高度である」こととは両立しうるのである。

本著もまた、平易であると同時に高度な内容である。一読しただけでは、なかなか内容が頭に入りきらないかもしれない――かくいう僕がそうでした……グスン。それでも、何度か繰り返し読んでいけば、だんだんと内容が頭に入ってくるはずである。

井上智洋さん。お気に入りのリフレ派の論客が、またひとり増えた。

 

ヘリコプターマネー

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